「測りすぎ」ジェリー・Z・ミュラー著 松本裕訳

公開日: 更新日:

 いまや、ツイッターやインスタグラムのフォロワー数がその人の人気の大きな指標となっている。以前であれば、自身が発信した情報に対してどんな反応があるのかは見定めにくかったのだが、現在のSNSではそれが即座に数値として「測る」ことができる。同様に、さまざまな分野でそれぞれの測定基準によってそのパフォーマンス(成果、業績)が評価されている。 たとえば、世界の大学のランキングを測るときのひとつの測定基準に、他の論文に多く引用されている高被引用論文数がある。引用頻度の高い論文を輩出する大学ほどレベルが高いというわけだ。

 しかし、本書の著者はその測定基準を重視する結果、一部の学者が非公式な引用サークルを結成し、お互いの論文を可能な限り引用するという弊害を生むと警告する。これは大学に限らない。本書には、各分野で成績を良くするために、あの手この手を駆使する様子が描かれている。

 共通テストの平均点による学校のランキング評価では、学力の低い生徒を「障害者」として評価対象から排除して成績の平均を上げ、術後30日経過した時点での患者の生存率が測定基準になる医療現場では、成績を下げそうだという理由でリスクの高い患者の受け入れを拒否し、重罪犯罪率を引き下げるために、通報を受けた警察官が、侵入窃盗は不法侵入に、押し入り強盗は器物破損に、窃盗は遺失物として記録する……。

 本書で取り上げられている例はいずれも米国のものだが、日本でも同様のことが行われているだろうことは、近年の各種改ざん事件からも容易に推測できる。本来なら公正な判断をするための指標のはずが、いつの間にか「測定強迫症」に陥って数字の奴隷になってしまう。まさに忖度(そんたく)という名の「測りすぎ」である。 <狸>

(みすず書房 3000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1
    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

    狙われた大谷の金銭感覚…「カネは両親が管理」「溜まっていく一方」だった無頓着ぶり

  2. 2
    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

    米国での評価は急転直下…「ユニコーン」から一夜にして「ピート・ローズ」になった背景

  3. 3
    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”

    大谷翔平は“女子アナ妻”にしておけば…イチローや松坂大輔の“理にかなった結婚”

  4. 4
    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

    「ただの通訳」水原一平氏がたった3年で約7億円も借金してまでバクチできたワケ

  5. 5
    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

    水原一平元通訳は稀代の「人たらし」だが…恩知らずで非情な一面も

  1. 6
    新婚ホヤホヤ真美子夫人を直撃、米国生活の根幹揺るがす「水原夫人」の離脱

    新婚ホヤホヤ真美子夫人を直撃、米国生活の根幹揺るがす「水原夫人」の離脱

  2. 7
    違法賭博に関与なら出場停止どころか「永久追放処分」まである

    違法賭博に関与なら出場停止どころか「永久追放処分」まである

  3. 8
    大谷翔平のパブリックイメージを壊した水原一平通訳の罪…小栗旬ら芸能人との交流にも冷たい視線

    大谷翔平のパブリックイメージを壊した水原一平通訳の罪…小栗旬ら芸能人との交流にも冷たい視線

  4. 9
    小室圭さんが窮地の大谷翔平の“救世主”に? 新通訳&弁護士就任にファンが期待

    小室圭さんが窮地の大谷翔平の“救世主”に? 新通訳&弁護士就任にファンが期待

  5. 10
    「白鵬米」プロデュースめぐる告発文書を入手!暴行に土下座強要、金銭まで要求の一部始終

    「白鵬米」プロデュースめぐる告発文書を入手!暴行に土下座強要、金銭まで要求の一部始終