「分解の哲学 腐敗と発酵をめぐる思考」藤原辰史著

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 開巻劈頭、「掃除のおじさんに」という献辞があるが、序章を読んで納得。著者がかつて住んでいた集合住宅には、毎朝、掃除のおじさんがやってきていた。ゴミ捨て場の整理が終わると各階の共用通路を掃除する。デッキブラシをこする音が一日の始まりを告げる。それだけでなく、ゴミとして出された段ボールや発泡スチロールで子供たちに玩具を作ってくれた。

 彼は掃除することで建物のメンテナンスをし、ゴミを玩具に変えたことで不要なものを再び社会的価値に組み立て直したのだ。この掃除のおじさんとそのふるまいを、先人たちが紡いできた思考と行動してきた歴の中に置き直し、普遍化すること――それが本書の目的にほかならないという。

 近代世界は、生産、構築、拡大という進歩主義的な価値観のもとに動いてきたが、ここにきてその限界が明らかになっている。しかし、そもそもこの世界は分解、崩壊、縮減こそが基礎に動いているのであって、その逆ではない、と著者は言う。そしてさまざまな領域から分解という概念を照らしていく。

 たとえば、ドイツの教育学者フレーベルが幼稚園の教材として使用した積み木から破壊することの創造性を考察する。あるいはチェコの作家カレル・チャペックの近未来小説から腐敗力を失った人類の未来を示唆する。みずからくず拾いとなって奉仕活動を続けた“蟻の街のマリア”の事績をたどりながら、くずを価値あるものに変換する可能性を探る。さらにはファーブルがその美しさを称賛した糞虫のスカラベから生態系における「掃除屋」の役割を検証する。

 この「分解」は創造にとって必須の前提基盤であり、究極的には「食」の現象を再考することになるという。食に的を絞った「分解論」をぜひとも読んでみたい。

 <狸>

(青土社 2400円+税)

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