「世界戦争の世紀20世紀知識人群像」桜井哲夫著

公開日: 更新日:

 本書冒頭に驚くべき数字が紹介されている。16世紀以降の500年間の戦死者の合計は4620万人で、そのうち20世紀の戦死者が全体の65・8%、50年までの前半だけでも57・6%を占める。第1次と第2次の2つの世界大戦により、従来の局地的な戦争から広範な世界戦争に拡大し、毒ガス、原子爆弾などの大量殺戮兵器の開発がその数を押し上げる大きな要因となった。

 この数字は、一部の兵士だけでなく男女、身分、階級の別なくあらゆる人間が戦争に巻き込まれたことを意味する。となれば、この2つの戦争がその時代に生きた人間に決定的な精神変動をもたらしたことは言をまたない。

 本書は、そうした流れのなかに「翻弄され続けたヨーロッパ知識人の思想と行動をからめながら、20世紀の歴史と思想を跡づけようとする」壮大な試みである。

 本書の中核となるのはフランスとドイツの文学・思想界だ。といっても、巻末の18ページにわたる人名索引を見るだけでも登場する人物の幅広さがわかる。この大掛かりな思想ドラマをつくるにあたって、著者は何人かのキーパーソンを仕立てている。マルロー、レヴィ=ストロース、ブルトン、バタイユ、シモーヌ・ヴェイユ、トロツキー、ベンヤミン、アレント、ハイデッガーといった面々だ。彼ら個々の戦争体験が、その後の知的遍歴にどのような変化をもたらし、その思想が周囲にどのような影響をもたらしていったのかをスリリングに描いていく。中でも興をそそられるのは、彼ら相互の影響関係だ。たとえば、およそ水と油のように思えるヴェイユとバタイユが奇妙な絆で結ばれていたという指摘がそれ。

 その他、個別に見えていた思想・事件が有機的に結びついていき、戦争と知識人という側面から見た、20世紀という時代の顔が浮上してくる。

<狸>

(平凡社 6400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁「キャスター」視聴率2ケタ陥落危機、炎上はTBSへ飛び火…韓国人俳優も主演もとんだトバッチリ

  2. 2

    佐々木朗希「スライダー頼み」に限界迫る…ドジャースが見込んだフォークと速球は使い物にならず

  3. 3

    「たばこ吸ってもいいですか」…新規大会主催者・前澤友作氏に問い合わせて一喝された国内男子ツアーの時代錯誤

  4. 4

    永野芽郁「二股不倫」報道でも活動自粛&会見なし“強行突破”作戦の行方…カギを握るのは外資企業か

  5. 5

    周囲にバカにされても…アンガールズ山根が無理にテレビに出たがらない理由

  1. 6

    インドの高校生3人組が電気不要の冷蔵庫を発明! 世界的な環境賞受賞の快挙

  2. 7

    三山凌輝に「1億円結婚詐欺」疑惑…SKY-HIの対応は? お手本は「純烈」メンバーの不祥事案件

  3. 8

    永野芽郁“二股不倫”疑惑「母親」を理由に苦しい釈明…田中圭とベッタリ写真で清純派路線に限界

  4. 9

    佐藤健と「私の夫と結婚して」W主演で小芝風花を心配するSNS…永野芽郁のW不倫騒動で“共演者キラー”ぶり再注目

  5. 10

    “マジシャン”佐々木朗希がド軍ナインから見放される日…「自己チュー」再発には要注意