「皮膚はすごい」傳田光洋著

公開日: 更新日:

 前著「皮膚は考える」というタイトルを目にしたとき、単純に比喩と思ったのだが、読み進めていくうちに文字通りの意味だとわかった。皮膚表皮は、受精卵からの発生段階において中枢神経と同じ外胚葉由来の器官であり、脳と同じ受容体をもっている。つまり、皮膚には脳と同じく五感があるというのだ。前著でそんな驚くべき事実を教えてくれた著者が、さらに生物界全体にわたって皮膚の不思議な能力を描いたのが本書だ。

 今回も羊頭狗肉とは真逆で、正真正銘皮膚のすごさが伝わってくる。たとえばエレファントノーズフィッシュという魚は全身の表皮に電気的なセンサーを張り巡らし外部の情報を得ている。あるいは、北極海に生息するヒラメの皮膚には「不凍タンパク質」があり、氷点下でも皮膚が凍らない。

 そもそも陸生動物の場合、皮膚の一番大事な役目は、体内の水分を失わないよう内部と外部の境界をつくることだ。また体温調節や外部情報の取り込みの役割も大きいのだが、昆虫やエビ、カニのような甲殻類は硬い殻をまとって敵からの防御を優先して、体温調節の機能と皮膚感覚を捨てた。そのため冬眠やさなぎになって寒い冬を過ごし、触覚の代わりに触角で外部情報を得たり、トンボやハエは頭を動かさずとも三百六十度見渡せる複眼という優れた器官を獲得した。

 そして人間は進化の過程で体毛を失う。体毛をなくすことでリスクは高まるが、表皮を直接環境にさらすことでさまざまな情報が表皮からもたらされる。体毛という防御機能を失う代わりに、脳と表皮という2つの情報感知、情報機構の連係プレーをつくり上げ、あらゆる環境に適応する能力を身につけた。皮膚、恐るべしである。

 その他、思いもよらぬ皮膚の不思議がたっぷり開陳されている。 <狸>

(岩波書店 1200円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾