「赤ちゃんはことばをどう学ぶのか」針生悦子著

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 2020年度から小学校の英語教育の大幅な改革が予定されている。これまで5、6年生が「活動」として英語を学んでいたのが3、4年生に引き下げられ、5、6年生は英語が正式な教科となり、「聞く」「話す」に加え「読む」「書く」が加わる。ということで、英語の早期教育の必要性が説かれている。だが、幼い頃から英語に限らず外国語に接することが本当に外国語学習において効果があるのか。

 大人と違って子どもはあっという間に外国語を覚える、とはよくいわれることだが、本書はこの通説に疑問を投げかける。

 子どもが初めて単語らしきもの(「マンマ」「ブーブ」)を言い始めるのは1歳の誕生日の頃。その後、最初は緩やかに単語の数が増えていき、1歳後半になると「語彙爆発」と呼ばれる爆発的な勢いで単語が増え、あわせて単語をつなげて話すようになる。

 こうした様子を見ると子どもは言葉を覚える天才のように思えるが、著者はさまざまな研究を例に、赤ちゃんが耳にした音を言葉として認識するには大変な努力を要し、決してラクにやっているのではないことを明らかにする。となれば、早期に外国語に触れさせればバイリンガルな子どもになるというのも疑問となる。

 つまり、懸命に母語を覚えている最中の子どもに外国語を覚えさせようとしても、それは余計な負担が増えるだけなのだ。その外国語を習得したとしても、今度は母語が不完全なものになってしまう。人間の脳の容量には限りがあるわけで、そこに2つの言語を完璧に入れ込もうとしてもふつうは無理であり、海外で暮らしたからといって必ずしもバイリンガルに育つわけでもない。

 改革を前に大慌てで、子どもに英語を、と焦っている皆さん、ここは少し冷静に。<狸>

(中央公論新社 820円+税)

【連載】本の森

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