「手で見るいのちある不思議な授業の力」柳楽未来著

公開日: 更新日:

 本書の舞台は、筑波大学付属特別支援学校の生物室。登場人物は、中学部1年A組の生徒7人と、生物担当の武井洋子先生。同校では、中1の全盲の生徒たちの生物の授業を、前半は葉っぱをひたすら触って観察し、後半は動物の骨を触ることに充てている。

 このユニークな授業形式は、「ペンギン博士」と呼ばれたペンギン研究の第一人者であり、日本の自然保護教育の担い手でもあった青柳昌宏が考案、それを視覚障害者教育を専門とする鳥山由子が引き継ぎ、3代目の武井の現在まで40年以上続いている。本書は、後期の動物の骨を触る授業を観察した記録だ。

 1時間目。生徒たちの前に1人1個ずつ動物のあご骨が置かれる。動物の名前は教えないのがルール。武井は何も言わずに生徒たちに骨を触らせると、ある生徒が「牙みたいなものがある」と気づく。すかさず武井は、その牙の後ろの方を触るように指示。後ろには歯が並んでいることから、これが頭蓋骨だとわかる。そこから脳の大きさ、目や鼻の向きなどを確かめていく。さらに首の骨が後ろ向きになっているから四足歩行だろうと推測し、生徒たちは徐々にこの動物Aの正体に迫っていくのだ。

 その間、教師の武井は生徒たちの議論にヒントを与えるだけにとどめ、何も言わない。そう、生徒たちが自ら発見し考えていくことがこの授業の要諦なのである。

 取材の途中、著者は生徒と同じように目をつぶって骨を触ってみる。ところがその指先からは何の情報も伝わってこない。目から入る情報に頼っていた者には、生徒たちのように指先から穴の大きさや質感を正確に観察する能力がなかったのだ。「学ぶ」ことの根源的な問いかけと同時に、いかに多様な学び方があるのかも教えてくれる、無限の引き出しを秘めた本である。 〈狸〉

(岩波書店 1500円+税)

【連載】本の森

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    趣里「大空港」視聴率好調も評価は伸び悩み…父・水谷豊「相棒」後継への期待と“日本的な弱点”

  2. 2

    2026年夏の甲子園は「不作」を通り越して“凶作”…プロスカウトが指摘する異変の原因

  3. 3

    ヤンキースの「横浜・織田翔希獲得プラン」をスッパ抜く! キーマンに挙がる“日本人実業家”の名前

  4. 4

    夏の甲子園投手 プロ注目の4人をスカウト「ガチ評価」最注目の横浜・織田翔希には“意見”割れる

  5. 5

    スマスロ『L戦国乙女5』は前評判での「覇権台」が裏目に…ユーザーの厳しい意見に今後のホールの対応は?

  1. 6

    北島三郎(2)2018年に次男が急逝「息子だけど、音楽の、とても良い仲間でもあった」

  2. 7

    佐藤輝明「三冠王」なら年俸いくら? メジャー流出阻止へ阪神が用意する破格の条件

  3. 8

    徳川光圀(1)水戸黄門は全国漫遊などしていない 主に出かけたのは江戸と領地の往復

  4. 9

    働かない高市首相がお盆休み満喫…4日間「終日公邸」おこもり、いよいよ剥がれる“鉄の女”のメッキ

  5. 10

    消費税政局なんてありゃしない 誰も高市早苗を引きずり降ろせない歯がゆさと暗澹