「その部屋のなかで最も賢い人」トーマス・ギロビッチ、リー・ロス著小野木明恵訳

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「自分よりゆっくり車を走らせているやつはバカで、自分より速いやつはイカレてると思ったことはないか?」

 こう聞かれて、多くの人はうなずくに違いない。つまり、一口に「客観性」とはいっても、そこには個々人の思い込みやバイアスがかかっており、そこを間違うと判断を誤ってしまう。本書はそうした思い込みや錯誤を排して、いかに賢明な判断を下せるかを、社会心理学の側面から説いたもの。

 ここで扱われているのは、次の5つの要素。①は先に挙げた「客観性の幻想」②の「状況の押しと引き」では、有名なミルグラム実験を例に引き、ある状況の下では命じられれば非常に危険な行為をしてしまうという、状況的な力と制約の影響を論じる③の「ゲームの名前」は、耳を立てているウマにも見えるし、その耳の部分を尾っぽと見立てれば寝転がったアザラシにも見えるイラスト(本書カバーに使用)を示し、枠付けの問題を取り上げる④の「行動の優越」は、ドイツの反ナチの白バラ運動を例に、害悪に立ち向かう効果的なあり方を問う。そして⑤の「鍵穴、レンズ、フィルター」は、イデオロギーによって視野が狭まる「トンネル視」の危険性を訴える。

 これら5つの要素を十二分に考慮して最も賢い判断を下した例として、南アフリカ大統領のネルソン・マンデラが1995年のラグビー・ワールドカップの決勝戦において、白人のアフリカーナーが圧倒的多数を占める競技場に、アパルトヘイトを象徴するジャージーを着て登場し、見事に民族融和を図ったエピソードを紹介している。

 翻って、「その部屋のなかで最も愚かしい人(たち)」が国政を握っている我が国。果たして変化が訪れる日が、いつか来るのだろうか。 <狸>

(青土社 2200円+税)

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