「オカルティズム」大野英士著

公開日: 更新日:

 名探偵シャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルは晩年のほとんどを心霊術研究に費やし、超常現象に関する本まで書いている。また、発明王エジソンはブラヴァツキー夫人の神智学協会に加盟していたことが知られている。科学的な合理主義精神の持ち主と思われるこの2人が、なぜそうした非理性的なものに引かれたのか? そんな疑問に答えてくれるのが本書だ。

 本書は、ヨーロッパの歴史の中で連綿と引き継がれてきた秘教的神秘主義(オカルティズム、エゾテリスム)の系譜をたどり、変遷する世界認識の枠組みの中で、オカルティズムがいかなる社会現象を引き起こしてきたのかを跡づけたものだ。ここで取り上げられているのは、魔術、占星術、錬金術、動物磁気、心霊術、聖母マリア出現、フリーメーソン、ナチス・オカルティズム等々。こうして並べただけでも、ヨーロッパの歴史の中でオカルティズムがいかに大きな役割を果たしてきたのかがわかる。

 注目すべきは、唯物論や進化論、実証主義などの合理的精神が席巻した19世紀に心霊術が大きな流行となったことだ。ここで現れたポルターガイストや降霊円卓(日本のコックリさん)といったオカルト現象が、科学主義・医学の発達と根を同じくする「疑似科学」の衣をまとうことによって、正統科学のカウンターとしての役目を果たした。それはまた、従来のカトリック信仰やプロテスタント信仰では回収できない信仰(死後の魂の存在=永遠の生命)の希求にこたえるものでもあった。

 近年のニューエイジブームもそうだが、これらは決して過去の話ではない。今後も、新たな装いのオカルティズムが繰り返し現れるに違いない。そうしたときに本書は良き道しるべとなるだろう。 <狸>

(講談社 1900円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    2度不倫の山本モナ 年商40億円社長と結婚&引退の次は…

  2. 2

    日本ハムFA松本剛の「巨人入り」に2つの重圧…来季V逸なら“戦犯”リスクまで背負うことに

  3. 3

    FNS歌謡祭“アイドルフェス化”の是非…FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE登場も「特別感」はナゼなくなった?

  4. 4

    「ばけばけ」好演で株を上げた北川景子と“結婚”で失速気味の「ブギウギ」趣里の明暗クッキリ

  5. 5

    「存立危機事態」めぐり「台湾有事」に言及で日中対立激化…引くに引けない高市首相の自業自得

  1. 6

    阪神異例人事「和田元監督がヘッド就任」の舞台裏…藤川監督はコーチ陣に不満を募らせていた

  2. 7

    (2)「アルコールより危険な飲み物」とは…日本人の30%が脂肪肝

  3. 8

    西武・今井達也「今オフは何が何でもメジャーへ」…シーズン中からダダ洩れていた本音

  4. 9

    阪神・佐藤輝明にライバル球団は戦々恐々…甲子園でのGG初受賞にこれだけの価値

  5. 10

    高市政権の物価高対策はパクリばかりで“オリジナル”ゼロ…今さら「デフレ脱却宣言目指す」のア然