シネマの本棚
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40年前の官僚主義と監視社会の暴力が現代に迫る
SFが「サイエンス・フィクション」(空想科学小説)や「スペース・ファンタジー」(宇宙活劇)の略だったのは昔の話。いまではもっぱら異世界や架空の歴史を疑似現実として描く「シミュレーテッド・フィクション…
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名盤制作の現場を記録した未公開映像
男女のデュエットは数あるけれど、こんなにも軽やかな幸福感に富む曲はないだろう。 ♪棒きれ、石ころ、行き止まり、切り株、寂しさ、ガラスのかけら……。 単語を並べるだけで彼女の声は少女のように…
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伊丹監督「お葬式」と同じシチュエーション喜劇
コメディーは国境を越えない。小生かねての持論だが、今回はどうだろう。来週末封切りの「Shiva Baby シヴァ・ベイビー」である。 シヴァはユダヤ系のお弔いの儀式。日本なら法要後の「御斎」…
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山を追われた狩猟民の男が黒い牛に出会い…
民俗学者の柳田國男は、山の奥深いところには「無数の山神山人の伝説あるべし」と言った。まさしくそういう映画が現在公開中の「黒の牛」である。 路傍の地蔵のような風采の男がひとり。どうやら世のうつ…
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17歳少女が気がついた大人への失望
離婚が当たり前の現代アメリカでも親の離婚は子どもに影響する。ゆえに、その影響をありのまま描くのは難しい。その稀有な例外が先週末封切りの「グッドワン」だ。 17歳の少女が父親と泊まりがけのトレ…
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認知症を患った大物女優が挑む最後の舞台
「正月映画」といえば昔は年末封切りで年越し興行する大作や人気シリーズのことだった。しかしいまや若者ばかりか老人まで盛り場をうろつくのが祝日の娯楽。正月映画は文芸物の小品をミニシアターで見るのが似合いに…
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映画作家カプランのセンスが光る傑作喜劇4本
昔は年末になると「年忘れ喜劇祭」なんて名目で旧作を一挙上映する地元の映画館があったものだ。今年は珍しくもそんな雰囲気の特集上映が年末にロードショーされる。 「ネリーに気をつけろ! ネリー・カプ…
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故郷に戻った男の存在は家族の記憶から消え…
醒めていながらに見る夢のことを白日夢という。 言葉だけならロマンチックな響きでも実際の白日夢は夢うつつのなかに不条理と胸騒ぎが押し寄せる不穏な経験だ。先週末封切りのリム・カーワイ監督「アフタ…
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つげ義春の短編漫画2作を組み合わせた筋立て
意外にも、というのは失礼だろうか、つげ義春の漫画には映画化作品が少なくない。随筆類まで含むと五指を軽く超える。そこに新たに加わったのが現在公開中の三宅唱監督「旅と日々」である。 実はつげ原作…
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アジアの映画人との縁を育てた故・佐藤の生涯
私事で恐縮だが、今年の夏と秋は映画祭の仕事でまるで休みがなかった。隔年開催の「山形国際ドキュメンタリー映画祭」で特集上映の企画を共同担当し、作品選定から先方との交渉や手配、解説カタログの編集、当日の…
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意思と肉体を持ったAIが現実世界で動き出す
興行上の失敗作がやがて人気を得てカルト映画化するというのはよくある話。典型が「ブレードランナー」だ。同じ1982年に全米公開されてやはりコケたのが「トロン」。ゲーム制作者がゲームの中にのみ込まれてレ…
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破棄された東独マルク紙幣で一儲けを計画
どんなにグローバル化が進んでもなかなか国境を超えないのが「笑い」。ジョークや風刺は暮らしや言語に密着するぶんだけ、翻訳しても伝わりにくいのだ。 しかしそれでも一見の価値ありというドイツの未公…
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仮釈放中の男と1匹の犬との奇妙な絆を描いた快作
巨大な画面でも見劣りしない映画をつくれる。そういう国は必ず映画産業全体に勢いがある。それを実感するのが今週末封切りの「ブラックドッグ」、最初のショットから観客の心をさらう快作である。 冒頭、…
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オランダ育ちの元難民少女が故郷ボスニアへ
古い文献を読んでいたら「絵画的な映画」という言葉が目についた。映画は絵として美しくあるべきだというのである。映画は大きなスクリーンを画布とする絵なのだ、と言い換えてもいいだろう。 来週末封切り…
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親しくなったクジラたちとの交流の物語
真夏の太陽と海洋ドキュメンタリーは似合いの組み合わせだろうが、実は期待はずれも少なくない。一面に広がる海の青というだけで絵になることに甘えた凡作が意外に多いのである。 しかし今月末封切りの「…
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NYの伝説のビデオ店をめぐるドキュメンタリー「キムズビデオ」
いま40代以上の世代なら覚えているはずなのがレンタルビデオ店。わけても通好みのマイナー作品をそろえた店は、やれ渋谷だ水道橋だと、それぞれうるさ型の馴染み客がついていたものだ。 そんな往時を蘇…
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複数の詩編のように描いた「ここにいない人」
映画は、ただ映像をつなげれば映画になるわけではない。当たり前だといわれそうだが、ただ言葉をつなげればそのまま詩になるわけじゃないのと、それは同じだ。 のっけから何いってるんだといわれそうだが…
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人の世の愚かさとはかなさが胸に迫る
毎年夏になると昔は風物詩みたいに戦争映画が公開されたものだが、戦争映画は金がかかる。中身にかかわらずセットやロケ撮影をケチると見た目がちゃちになるから、反戦のメッセージをよりよく届けるにも徹底して、…
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“地を這うヒコーキ”の体感に没入
いつだったか懇意のベテラン自動車メカニックに「飛行機の免許をとろうかな」と口にしたら即座に「およしなさいよ」と一蹴された。その理由がいい。「だってね、空には地面がないんですよ」 この冗談(の…
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無実の罪で収監されたアメリカ人の人情悲喜劇
外国の独裁政権に逮捕されるアメリカ人が急増中と最近の「ウォールストリート・ジャーナル」が報じている。昔から脇が甘くておせっかいなのがアメリカ人旅行者の共通点なのだが、まさにそこから始まる悲喜劇を描く…
