つげ義春の短編漫画2作を組み合わせた筋立て

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「旅と日々」

 意外にも、というのは失礼だろうか、つげ義春の漫画には映画化作品が少なくない。随筆類まで含むと五指を軽く超える。そこに新たに加わったのが現在公開中の三宅唱監督「旅と日々」である。

 実はつげ原作の映画化は難しく、十分な成功を得たためしがない。独りよがりの“高踏耽美”か、考え過ぎの面白くない喜劇か、いずれにせよあの間合いや、唐突なようで周到に練られた筋立てを生かせぬまま終わってしまうのが常だった。

 今回は違う。実は筆者はこの映画がつげ原作だと知らずに見始めて「あれ? これはもしや」と途中で気づいたのだが、それほどに無理なく、つげ流話術の骨法を自分の呼吸にしたということだろう。

 つげの作品は幻想を誘い出す大人のための絵本みたいなもので、水木しげるゆずりの粘着的な絵柄と、吹き出しのせりふの微妙なズレが脱臼的な笑いや怖れを幻覚させる。多くの映画人はそれを絵柄で生け捕ろうとして失敗するのだが、三宅は逆に筋立てをしっかり踏まえたうえで、「海辺の叙景」と「ほんやら洞のべんさん」という、まるで肌合いの違う2作を入れ子細工もどきに組み合わせる仕掛けに出た。

 これが功を奏してリアリズムが空中浮遊してシュールレアリスムに変じるような出来になっている。つげ漫画につきものの淫靡を抑制し、全体として清涼なトーンに落ち着かせたのも当節らしい。

 つげの漫画を「隠者の芸術」と呼んだのは映画評論家の故佐藤忠男だが、いま書店で入手可能なつげ論のうち独特の風趣で読ませるのが正津勉著「つげ義春『ガロ』時代」(作品社 2420円)。つげと親しく、共に温泉旅行に出たこともあるという著者は吃音の詩人。文法は明らかにおかしいのに違和感なく心情が伝わるという芸当で一読の価値を得ている。 〈生井英考〉

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