故郷に戻った男の存在は家族の記憶から消え…

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「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」

 醒めていながらに見る夢のことを白日夢という。

 言葉だけならロマンチックな響きでも実際の白日夢は夢うつつのなかに不条理と胸騒ぎが押し寄せる不穏な経験だ。先週末封切りのリム・カーワイ監督「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」はそういう映画である。

 10年間、故郷を離れていた男が帰郷する。だが、懐かしいはずの実家では母や兄から「おまえなど知らない」と追い払われ、途方に暮れて町をさまよううち、あろうことか殺人の嫌疑をかけられる。理由など皆目見当もつかず、観客もどこに心情を託したものかわからない。

 ほとんど意味不明の展開だが、故意に深みを欠いたようなモノクローム映像は不穏な気配に満ちて目が離せない。まさに白日夢と同じく、わけもわからぬまま、からみつくように引きこむ力がスクリーンを満たすのである。

 カーワイはマレーシア出身で日本留学後に外資系企業で技術者として働き、2009年に40歳間近で監督デビューしたあとも大阪在住という中国人。

 既に10作を超えるキャリアの持ち主だが、本作はそのデビュー作品のデジタル・リマスター版による再上映だ。

 登場するみすぼらしい街並みは北京郊外だが、いまやかけらもなく近代化されたという。グローバル化から約30年の中国は、敗戦から一世代を経た1970年代日本のようなもの。そう考えれば往時の風景など白日夢にも等しい。

 映画の主人公が味わう不条理は、見慣れたはずのものが突然未知に変ずる悪夢ともいえるだろう。「ポーランドで唯一」という恐怖小説の古典的作家ステファン・グラビンスキ著「不気味な物語」(国書刊行会 2970円)の短編「視線」はまさにこの悪夢を描く。思えば映画というもの自体、醒めながら見る夢のようなものではあるのだが。

 <生井英考>

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