親しくなったクジラたちとの交流の物語

公開日: 更新日:

パトリックとクジラの6000日の絆

 真夏の太陽と海洋ドキュメンタリーは似合いの組み合わせだろうが、実は期待はずれも少なくない。一面に広がる海の青というだけで絵になることに甘えた凡作が意外に多いのである。

 しかし今月末封切りの「パトリックとクジラ 6000日の絆」は出色の一作。

 少年時代に博物館で見たシロナガスクジラの実物大模型に魅せられたパトリック・ダイクストラ。野生動物を追う暮らしに憧れたものの、まずは堅実に企業法務弁護士として資金を貯めてから転職。内戦下のスリランカの海でクジラを撮影したことを機に、いまや世界の海を股にかけるダイバー写真家になったという。

 監督は野生動物の記録で定評があるマーク・フレッチャーだが、ドミニカやスリランカの海で何年もかけて親しくなったクジラたちとの交流の物語を軸に、72分間の佳作に仕上げた。清冽な青一色の海の中でマッコウクジラの群れが直立して眠る光景には誰もが息をのむだろう。

 高度な撮影機材で撮影された海洋映像には、海を輪切りにしたような独特の幻想感がある。これを「アクアリウム・ビュー」という。

 アクアリウムの原義は「水槽」。べアント・ブルンナー著「水族館の歴史」(山川純子訳 白水社 2640円)によれば、19世紀半ば、海全体を生態系としてとらえる発想を背景に、海底風景をジオラマ化した観賞用の水槽が富裕層のあいだで流行したのが、今日あちこちの水族館が売り物にする華やかなアクアリウム・ビューの原型になったらしい。

 ちなみにパトリックの母校ニューヨーク大学ロースクールのサイトに、この映画で一躍知られた彼のインタビューが掲載されている。これが面白い。最初に弁護士を選んだ理由から資産形成のための投資術、ロースクールの居心地など、ほかのインタビューにない内容で群を抜いている。〈生井英考〉

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    清原和博氏が巨人主催イベントに出演決定も…盟友・桑田真澄は球団と冷戦突入で「KK復活」は幻に

  2. 2

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  3. 3

    99年シーズン途中で極度の不振…典型的ゴマすりコーチとの闘争

  4. 4

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  5. 5

    日銀を脅し、税調を仕切り…タガが外れた経済対策21兆円は「ただのバラマキ」

  1. 6

    巨人今オフ大補強の本命はソフトB有原航平 オーナー「先発、外野手、クリーンアップ打てる外野手」発言の裏で虎視眈々

  2. 7

    阿部巨人に大激震! 24歳の次世代正捕手候補がトレード直訴の波紋「若い時間がムダになっちゃう」と吐露

  3. 8

    林芳正総務相「政治とカネ」問題で狭まる包囲網…地方議員複数が名前出しコメントの大ダメージ

  4. 9

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  5. 10

    角界が懸念する史上初の「大関ゼロ危機」…安青錦の昇進にはかえって追い風に?