オランダ育ちの元難民少女が故郷ボスニアへ

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「テイク・ミー・サムウェア・ナイス」

古い文献を読んでいたら「絵画的な映画」という言葉が目についた。映画は絵として美しくあるべきだというのである。映画は大きなスクリーンを画布とする絵なのだ、と言い換えてもいいだろう。

 来週末封切りの「テイク・ミー・サムウェア・ナイス」はこの意味でまさに絵画的な映画である。題名は「すてきなどこかに連れてって」という意味の英語だが、聞こえるのはもっぱらボスニア語、ついでオランダ語だ。

 ボスニア・ヘルツェゴビナ出身でオランダ育ちの娘が、ボスニアにいる父の入院を聞いて故郷に旅立つ。故郷といっても実はほとんど知らない。旧ユーゴ紛争時代に幼い難民として逃れて以来、彼女の日常はオランダだからだ。頼ったいとこに邪魔にされ、いとこの友達の若者といい仲になり田舎の病院に行く途上では高速バスに置き去りにされ……という展開は、まあよくある青春ロードムービー。故郷でも避難先でも「難民」「移民」につきまとう居心地の悪さもコミカルな糖衣にくるんであるから筋書きは月並みだ。

 ところがこの映画、色彩設計が的確で絵がいい。鮮やかな原色は、実は安っぽくみすぼらしい欧州の端っこでよく見る風景。しかしそれをアングルと照明の工夫でアレックス・カッツばりの現代絵画のように見せることで、どこに行ってもよるべない若者の心象が伝わる。監督のエナ・センディヤレヴィッチ自身、オランダのボスニア移民という。

 ニケシュ・シュクラ編「よい移民」(栢木清吾訳 創元社 2640円)はロンドン生まれのインド系作家が、自分と同じ「非白人」の英国作家たちに呼びかけた共同エッセー集。中国や日系、アフリカ系を含めて全部で21人。映画は欧州域内の話だが、根底はグローバル時代のデラシネ(根無し草)という共通点がある。わざわざ英語で「すてきなどこか」というアイロニーの苦さを思う。〈生井英考〉

【連載】シネマの本棚

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