“地を這うヒコーキ”の体感に没入
「F1(R)/エフワン」
いつだったか懇意のベテラン自動車メカニックに「飛行機の免許をとろうかな」と口にしたら即座に「およしなさいよ」と一蹴された。その理由がいい。「だってね、空には地面がないんですよ」
この冗談(のような本音)、よほどのクルマ好きでないと伝わらないかもしれない。クルマの醍醐味は地面をいかにうまく噛んで「曲がる・止まる」を自在に操れるかにかかっている。地面との格闘こそがクルマの命なのだ。
そんな感覚を映像で描き出すのが今週末封切りの「F1(R)/エフワン」である。
レース映画は臨場感が売り物だが、本作では1台のクルマに4機のカメラを搭載し、無線でアングルを変えながら走行中の前後左右の映像を自在に撮影したという。その結果、タイヤのグリップを利かせながら白煙をあげて疾駆する“地を這うヒコーキ”の体感(錯覚だが)が観客をいや応なく没入させるのだ。
ちなみに監督のジョセフ・コシンスキー以下、主だったスタッフは3年前の「トップガン マーヴェリック」と同じ面々だから、まさに没入感の演出で双方は兄弟作ということになるだろう。
日本におけるF1の物語といえば、海老沢泰久「F1地上の夢」が本田宗一郎のF1参戦から1986年に初めてコンストラクターズ・チャンピオンを獲得するまでを描いて、これ以後のF1ノンフィクションの原点となった。その後継にあたるのがNHK取材班「ホンダF1 復活した最速のDNA」(幻冬舎 1760円)。2021年、アイルトン・セナ以来30年ぶりにホンダのユニットでマックス・フェルスタッペンがドライバーズ・チャンピオンを獲得したときのドキュメントだ。
本当はF1とタイヤの話も読みたいのだが、現在のF1ではタイヤは伊ピレリ社の独占供給。しかも同社は中国資本の傘下なのである。
〈生井英考〉