アングラ全盛期を背景に描く写真家・深瀬昌久

公開日: 更新日:

「レイブンズ」

 先日の夜更けに新宿ゴールデン街を歩いて仰天した。深夜というのにあっちでもこっちでも外国人旅行者がきょろきょろとうろついて、まるで渋谷のスクランブル交差点だ。

 なんだこれ、としらけた気分になったのは無頼をきどるアーティストのたまり場だったころを覚えているからだ。

 そんな時代の物語を、当時を知らない世代の、それも外国人が描くとどうなるか。それが来週末封切りの映画「レイブンズ」である。

 主人公は2012年に亡くなった写真家・深瀬昌久。高梨豊、森山大道、荒木経惟ら同世代のなかでも内向的で癖が強くて一般に理解されにくかったが、つい深読みしたくなる文学的な作家性の持ち主だった。10年余の愛憎の末に別れた妻を撮った写真集「洋子」は、“私写真”を標榜した荒木の「わが愛、陽子」よりも私小説のにおいが濃い。それもいまや死語となったアングラ系の私小説だ。

 映画はそんな写真家を浅野忠信、妻を瀧内公美が演じてアングラ全盛期の空気を再演してみせる。なるほど彼らならフーテン族だのハプニングだのといってた時代に似合う。

 監督はイギリスの中堅監督マーク・ギルだが、外国人風のぎこちなさはない。映画化を仕掛けた面々と同様に80年代生まれのようだから、洋の東西を問わず、いわばアナログレコードの音色のように過去を“異文化”に見ているということだろう。

 ちなみに写真家は1992年にゴールデン街の急傾斜の階段から転がり落ちて脳挫傷し、20年後に死去するまで口も利けず無反応に過ごしていたという。そこまでの日々をつづったのが瀬戸正人著「深瀬昌久伝」(日本カメラ社 現在は絶版)。今日の深瀬再評価はこの人の献身がなければあり得なかった著者による、無頼も自堕落もしだいに消えてゆく時代を共に生きた師弟ならではの回想記である。 <生井英考>

【連載】シネマの本棚

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    日本中学生新聞が見た参院選 「参政党は『ネオナチ政党』。取材拒否されたけど注視していきます」

  2. 2

    俺が監督になったら茶髪とヒゲを「禁止」したい根拠…立浪和義のやり方には思うところもある

  3. 3

    上野樹里“ガン無視動画”にネット騒然! 夫・和田唱との笑顔ツーショットの裏のリアルな夫婦仲

  4. 4

    巨人・阿部監督に心境の変化「岡本和真とまた来季」…主砲のメジャー挑戦可否がチーム内外で注目集める

  5. 5

    松下洸平結婚で「母の異変」の報告続出!「大号泣」に「家事をする気力消失」まで

  1. 6

    松本潤&井上真央の"ワイプ共演"が話題…結婚説と破局説が20年燻り続けた背景と後輩カップルたち

  2. 7

    “死球の恐怖”藤浪晋太郎のDeNA入りにセ5球団が戦々恐々…「打者にストレス。パに行ってほしかった」

  3. 8

    参政党トンデモ言説「行き過ぎた男女共同参画」はやはり非科学的 専業主婦は「むしろ少子化を加速させる」と識者バッサリ

  4. 9

    松本潤「19番目のカルテ」の評価で浮き彫りに…「嵐」解散後のビミョーすぎる立ち位置

  5. 10

    巨人エース戸郷翔征の不振を招いた“真犯人”の実名…評論家のOB元投手コーチがバッサリ