破棄された東独マルク紙幣で一儲けを計画

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二対一 東ドイツ通貨統一の夏に発見した大切なこと

 どんなにグローバル化が進んでもなかなか国境を超えないのが「笑い」。ジョークや風刺は暮らしや言語に密着するぶんだけ、翻訳しても伝わりにくいのだ。

 しかしそれでも一見の価値ありというドイツの未公開コメディーを紹介したい。「二対一 東ドイツ通貨統一の夏に発見した大切なこと」である。

 東ドイツ(ドイツ民主共和国)が消滅したのはベルリンの壁崩壊の翌1990年。その夏、ザクセン地方の古都で廃棄されたはずの東独マルク紙幣が大量に発見される。見つけたのは地元育ちの3人の中年男女。日に日に「西」との格差を実感する彼らは、西独との通貨交換の抜け穴を見つけて一儲けを計画するのだが……というプロットは明らかに詐欺コメディーだ。

 それも国家を相手に一泡吹かせようという肝のすわった政治風刺である。いまさら東独に未練はないが、西独への憧れも既に消えて、ヤケクソでアナーキーな気分と地元愛のまぜこぜになった心情がある。そこがこのコメディーの見どころだろう。

 実はこの映画、今週末に始まる「特集ザンドラ・ヒュラー 変幻する〈わたし〉のかたち」の一作。ヒュラーはまさにベルリンの壁が崩れたころに少女期を過ごした世代。旧東独出身で最もめざましい活躍と知名度の女優で、日本でも「関心領域」やカンヌ映画祭最高賞の「落下の解剖学」でファンが多い。計7作のうち3つが本邦初公開という見ごたえあるイベントだ。

 東独については河合信晴著「物語東ドイツの歴史」(中央公論新社 990円)が便利な通史。1970年代の第1書記ホーネッカーの時代、「西」への対抗意識から東西ドイツ統一という目標が廃棄され、東独のアイデンティティーを追求する方針になったが、人々の間では「ドイツ人であるという意識は消えなかった」という。

 <生井英考>

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