話題の映画「バンコクナイツ」が描き出す楽園の今と真実
暑く湿っぽい夜風を切って疾駆するトゥクトゥク、シンハーとメコンの酔い、ゴーゴーバーの娼婦たちの嬌声。飛び交うバーツ。やがてそのうちの一人の腰に手を回し、女の細い指がからみつく。チャイナタウンのジュライホテル。バンコクに楽園を求め、また楽園でもあった頃を知る中高年男なら、懐かしさと共に、胸の奥の奥をかきむしられる映画「バンコクナイツ」(富田克也監督)が話題だ。
女たちのほとんどは地方から出稼ぎで、日本人の男は日本での居場所をなくしていた。安い定宿に部屋を取り、金を介して関係を結ぶ。女たちは金づるに、男たちは女に安息と心を求めて、ほとんどがかりそめの関係で終わり、破局していった。
そんなバンコクの今にカメラを向け、オールロケで撮ったという3時間超のスクリーンには、当時と変わらない夜の深さと、都市開発で明るく奇麗になった街がある。
元自衛官のオザワが、日本を捨て根無し草のように暮らすなか、タイ東北の田舎町イサーンから出てきた人気店「人魚」のナンバーワン、ラックと出会う。オザワはラックとラックの故郷へと向かう。そこでベトナム戦争のいまだ癒えぬ傷痕、楽園の真実を目の当たりにしていく。憂いを帯びたラック(写真)のすべてを受け止めることができるか――。配給・宣伝の岩井秀世氏が言う。