『虎に翼』脚本家、アニメ界でなぜ評価高い? 関係者がみる朝ドラヒットの要因は「公平な目線」

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コクハク

アメリカの賞にも輝いた吉田恵里香の脚本

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』が好評だ。主人公は日本初の女性弁護士・三淵嘉子をモデルとした猪爪寅子。彼女が投げかける疑問点は現代の女性が抱える問題にも通じ、視聴者への問題提起ともなっている。

 そんな真摯なテーマをテンポよく、重くなりすぎずに問いかける脚本が「秀逸」と評判のようだ。

『虎に翼』の脚本を担当するのは、NHKドラマ『恋せぬふたり』で第40回向田邦子賞を受賞した吉田恵里香氏。実は彼女が書くのはドラマだけではない。これまで数々のアニメ脚本も手掛けており、アメリカのアワードである「9th Anime Trending Awards(第9回 アニメトレンド大賞)」では最優秀脚色賞を受賞している。

 漫画原作付き作品のメディア化は騒動となることが多い昨今、アニメ業界においても吉田氏が評価される理由はどこにあるのか。

 吉田氏の手掛けたアニメ作品を振り返りながら、業界内やファンの間での評判を関係者に聞いた。

個を尊重しながら“ありのまま”を描く

 アニメ誌で長年執筆するライターはこう語る。

「吉田さんがアニメファンの間で大きな注目を集めたのは、やはり上記の賞を受賞した『ぼっち・ざ・ろっく!』でしょう。本来、淡々と進む4コマ漫画原作をアニメ化するのは難しい。一方、吉田さん脚本は、友達がいない主人公がバンド活動に目覚めるまでの様を丁寧に描いていて、“陰キャに対する解像度が高い”と放送直後から評価がうなぎ登りでした」(アニメ誌ライター/以下同)

 その理由を、吉田氏の“物事を見る視点”にあるのではないかと分析する。

「インタビュー等を読むと、人間の感情や人間関係の多様さに対して非常に公平な視点を持っており、積極的に作品にも取り込んでいるようです。多数派の価値観を押しつけるのでもなく、少数派に過剰に肩入れするのでもない。

 しかもそれを“政治的”に主張するのではなく、何よりも〈個〉の尊厳を重視しながら“ありのまま”に描くことを目指しているように感じます」

 特筆すべきは、漫画を原作としたドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(20年10月期放送、テレビ東京)だという。

 吉田氏が手掛けたのはアニメ版ではなくドラマ版ではあるものの、元々はいわゆるオタク女性から支持を受けているBL作品だ。

BL漫画原作ドラマでも手腕を発揮

 BLドラマといえば、別の脚本家が手掛ける『おっさんずラブ』(テレビ朝日系)内でのセリフが物議を醸したことも記憶に新しい。

「吉田さんの脚本は、センシティブなBL作品であってもファンの満足度が高かった。それは“男性同士の恋愛があっていい/あってはならない”といういずれの価値も押しつけず、愛ですぎたり逆に貶めたりもせず、自然なものとして受け入れ、その上で“ありのまま”を描こうとしているためではないでしょうか。それはすべての吉田さんの脚本に通じる魅力なのかもしれません」

 アニメファンの間で一大ブームを巻き起こしたヒーローアニメ『TIGER& BUNNY』(西田征史氏との共同脚本)においても同様であり、「作中に登場する超能力者“NSXT”に対する差別や偏見にスポットをあてるなど、現在の作風に通じる内容を感じる」という。

今の自分はアニメ作品のおかげ、と告白も

 吉田氏本人もNHKのWEBメディア『ステラnet』のコラム内で「私の脚本家人生の大半はタイバニと共にある」 「今の自分がいるのも、大袈裟でもなんでもなく、この作品のお蔭」 と綴っていることから、その影響を多大に残していることがうかがえるだろう。

 有名声優の田中真弓や平田広明が出演したり、一部では「演出やカット割りがアニメ的」「キャラクターの個性や言葉がアニメっぽい」とも言われる『虎に翼』。今後、吉田氏がアニメ脚本で培った経験がどう活かされていくのだろうか。

(コクハク編集部)

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