「彼方の友へ」伊吹有喜著
卒寿を越え施設で暮らす「波津子」に、面会希望者が訪ねてきた。波津子がすべての面会を断っていると聞いたその人は、紙袋だけを託して帰った。
中には少女雑誌「乙女の友」の昭和13年正月号の付録の美しい花のカードのセットが入っていた。その花の絵を描いたのは波津子が忘れもしない画家の純司だった。波津子の脳裏に若き日々が蘇る。
昭和12年、17歳の波津子は、音楽塾の内弟子兼家事手伝いとして働いていた。上海にいる父は音信不通で、母が病気で倒れたため、進学をあきらめて働く波津子だが、音楽塾での仕事を失ってしまう。やがて波津子は、親戚の紹介で憧れの「乙女の友」編集部で給仕として働き始めるが……。
戦時下の過酷な時代を懸命に生きる人々を描いた第158回直木賞候補作。
(実業之日本社 850円+税)