著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「鳥が人類を変えた」スティーヴン・モス著 宇丹貴代実訳

公開日: 更新日:

「鳥が人類を変えた」スティーヴン・モス著 宇丹貴代実訳

「わしは本を読まん。鵜からいろんなことを学んどるで」と、長良川の鵜飼は言った。本を書いているわたしに向かって、うれしそうな顔で続けた。「本なんか書くやつはたわけじゃ。自然のことも知らんでパソコンに向かっとるなんて、たわけじゃろ?」。思い出すとニヤニヤしてしまう(鵜飼ジジイの傑作な物語は拙著「はたらく動物と」に収録されております)。

 さて今回ご紹介するのは、鳥と人間の関係史をさまざまな角度から描いた一冊。著者はイギリスBBCで長く生物の番組に関わってきた人で、プロフィルには「野鳥観察家」なんて肩書も。古今東西の具体的なエピソードが満載で、隅から隅までおもしろい。

 ハトは、ハンニバルからチンギスハンまであらゆる戦いで伝令として使われてきたが、第2次大戦ではイギリス情報部がスパイのハトをドイツ軍に送り込んだ。09年のアフリカでインターネットと伝書バトはどっちが早いか競争が行われ、なんとハトが勝利。エンブレムにワシを描く国や地域はたくさんあるが、ナチスドイツと米国の極右主義支持者が掲げるワシには共通点があった。マリー・アントワネットが帽子にダチョウの羽根を付け、ご婦人のファッションのためにあまたの鳥が犠牲になる時代が到来する。中国の文化大革命では、害獣駆除の名目で数億羽のスズメが殺されたが、その裏側にはある科学者がいて……。

 世界史を変えた10種の鳥、それぞれの特徴がいとおしい。だからこそ浮き彫りになるのはホモサピエンスの身勝手さ。わたしはこの本を読みながら何度も「たわけ!」と叫びたくなった。

(河出書房新社 3190円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    やはり進次郎氏は「防衛相」不適格…レーダー照射めぐる中国との反論合戦に「プロ意識欠如」と識者バッサリ

  2. 2

    長嶋茂雄引退の丸1年後、「日本一有名な10文字」が湘南で誕生した

  3. 3

    契約最終年の阿部巨人に大重圧…至上命令のV奪回は「ミスターのために」、松井秀喜監督誕生が既成事実化

  4. 4

    これぞ維新クオリティー!「定数削減法案」絶望的で党は“錯乱状態”…チンピラ度も増し増し

  5. 5

    ドジャースが村上宗隆獲得へ前のめりか? 大谷翔平が「日本人選手が増えるかも」と意味深発言

  1. 6

    「日中戦争」5割弱が賛成 共同通信世論調査に心底、仰天…タガが外れた国の命運

  2. 7

    レーダー照射問題で中国メディアが公開した音声データ「事前に海自に訓練通知」に広がる波紋

  3. 8

    岡山天音「ひらやすみ」ロス続出!もう1人の人気者《樹木希林さん最後の愛弟子》も大ブレーク

  4. 9

    松岡昌宏も日テレに"反撃"…すでに元TOKIO不在の『ザ!鉄腕!DASH!!』がそれでも番組を打ち切れなかった事情

  5. 10

    巨人が現役ドラフトで獲得「剛腕左腕」松浦慶斗の強みと弱み…他球団編成担当は「魔改造次第」