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北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

映画評論家・北島純氏が新入社員諸君に贈る 「6月病」に打ち克つための映画ベスト3

公開日: 更新日:

 5月病ならぬ6月病をご存じだろうか。春に環境が激変した新入社員などがGW後に心身の不調を訴えるのが5月病。それに対して、生活リズムに人一倍気をつけていても6月に入って心身のバランスを崩すといった適応障害が6月病だ。梅雨時の気圧変化は自律神経に影響を及ぼし、ジメジメとした天気は気がめいるもの。本配属となった新社会人も要注意だ。ここではストレスを発散させ前向きになれる映画を紹介しよう。

■信じるマインドが大事なことを教えてくれるインド映画

 まずは「きっと、うまくいく」(2009年、ラージクマール・ヒラーニ監督)。名門大学に入学した自由奔放なランチョー(アーミル・カーン)は規則一点張りで権威主義の学長に目をつけられる。メゲることなく自己流を貫くが、実は本当の自分を見せられぬ事情があった。卒業後に消息不明となった彼を友人が遠路はるばる見つけ出すとランチョーは驚きの生活を送っていた──。きっとうまくいくと信じるマインドと友情が大切だと教えてくれる本作はインドで大ヒットを記録した。

■面従腹背を余儀なくされる人の共感を呼ぶ香港映画

 次に、香港映画「インファナル・アフェア3部作」(02~03年、アンドリュー・ラウ/アラン・マック監督)。舞台となるのは中国返還前後の香港。警察に潜入したマフィアをアンディ・ラウ、マフィアに潜入した覆面警察官をトニー・レオンが演じる。潜入先で演技をする「表向きの顔」と「本当の素顔」の葛藤を描くこの映画は、実社会で従順なフリをするが内心では従わない面従腹背を余儀なくされる多くの人の共感を呼ぶ。香港警察とマフィアそれぞれが獅子身中の虫、スパイを暴こうとするピリピリとした緊張の中、2人の運命が交錯する。本来の使命から逃げ出したくなりながらも生き残りを図る2人。あたかも無間地獄にはまり込むような苦行だが、2人が心を許すようになるのがカウンセリングを行う医師(ケリー・チャン)。信頼できる誰かを見つけて話ができるかが重要ということだろう。

 小さな寺で陽光がさす中、子分の前でマフィアのボスが祈祷する光景から始まる第1部、2人の青年時代を描く前日譚の第2部、そして後日譚も描く第3部という3部構成。特に第1部の面白さは圧倒的だ。本作をリメークした「ディパーテッド」(06年)はマーティン・スコセッシ監督に待望のアカデミー賞監督賞をもたらしている。

 しかし本作は、スコセッシ版のような娯楽作の域を超え、「香港映画」として二度と作れないであろう傑作でもある。香港は1997年に英国から中国に返還された。一国二制度とはいうものの、あまりに異なる政治体制の下で香港人が直面したのが「面従腹背」の問題だ。雨傘運動が2014年に鎮圧された後、香港特別行政区政府は国家安全維持法を制定、今年3月には統制を強化する国家安全維持条例が施行された。映画の世界でも21年に映画検閲条例が改正され、中国政府批判はご法度だ。そうした政治動向を知った上で見ると、本作の奥深さがしみじみと味わえるだろう。

■ラストのカタルシスに酔う

 最後が「マッドマックス怒りのデス・ロード」(15年、ジョージ・ミラー監督)。文明崩壊後の近未来、元警官のマックス(トム・ハーディ)は水源を支配する砦の独裁者イモータン・ジョーに拘束されるも、独裁から逃れようとする大隊長フュリオサ(シャーリーズ・セロン)を助けることに。しかし向かった目的地は荒れ果てていた。逃げ回っていてもキリがないと思い知った一行は、独裁者を倒すべく砦に戻ることを決意する。逃避行と反転攻勢は疾風怒濤そのもの。「地球温暖化なんてクソ食らえ」と言わんばかりにV8ガソリン車が爆走するさまは、スペクタクルに満ちている。救済のアテもない逃避より、絶対に諦めない気持ちで突き進めば活路は開ける。ラストのカタルシスは実に清々しい。

 5月31日には前日譚を描く「マッドマックス:フュリオサ」が公開された。ランチョーやフュリオサの勇気をもって仲間と歩めば6月病もブッ飛ばせる(かも)。

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