著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

古本と肴 マーブル(東陽町)本棚に囲まれた縦長の空間は古本屋兼立ち飲みの店

公開日: 更新日:

 四ツ目通りの一筋東。都営住宅あり、マンションありの小道沿いに立つ3階建ての小さな建物だ。すぐに分かったのは、店が静かに熱いオーラを発していたからだ、きっと。

 店主・蓑田沙希さんが開口一番「狭くってすみません」とおっしゃったが、いやいや、本棚に囲まれた縦長の空間に分け入っていくワクワク感がいい。人文系や小説が多いもよう。「私の見た昭和の思想と文学の五十年」「私のチェーホフ」「埴谷雄高・吉本隆明の世界」「死刑廃止論」……。そんなタイトルを頭に記録しながら、4、5メートル進むと、やはり本が並ぶカウンターに行き着く。ここ「古本と肴マーブル」は、古本屋兼立ち飲みの店なのである。2018年にオープンした。

「酒は飲んできた方。なので、肴だけは作れる(笑)」とサラリ

「2階、3階が住まいです。子ども、今はもう10歳ですが、小さかった頃、ここで、この形でならできるかなと思って」とのこと。蓑田さん、ただ者じゃなかった。辞典専門の編集プロダクション出身。フリーになってから辞典以外の編集も受けているが、緻密な文字の世界の“住人”なのだ。しかも「酒は飲んできた方。なので、肴だけは作れる(笑)」とサラリ。

 卒論テーマが埴谷雄高の「死霊」だったという蓑田さん。店内の本は、その頃からの蔵書2割と、あと8割はお客さんからの買い取りで、近所の団地の年配住民からも多いそう。「昔、この街で新しい暮らしをしようと移り住んでこられた方々が、たくさんの本をお読みになった。時を経て、今、処分するサイクルに入っておられるみたいです」としみじみ。買い取り価格は、「他店よりちょっと高め」の設定とか。

「面白いのはね、お客さんと物々交換……」と。例えば、買い取り希望の紙袋いっぱいの本をAさんが持ってくる。2000円で買い取り、支払う。Aさんが立ち飲み客となり、2000円を払って帰る。そうしたことがよくあるそう。いいなー! と言っているうちに、18時、開店時間を迎える。雨の月曜日にもかかわらず、10分もしないうちに10人が来店。「本買うだけ」「酒飲むだけ」どちらもOKだが、この日のお客に飲まない人はいず、ちょいと私もご一緒させていただいた。

◆江東区東陽4-9-4/地下鉄東西線東陽町駅から徒歩3分/℡03・311・2410(営業中のみ)/月・土曜18~22時ごろ、木・金曜19~22時ごろ

ウチらしい本

「あまカラ食い道楽」谷崎潤一郎ほか著

「戦後の、うまいもの雑誌『あまカラ』をご存じですか? 谷崎潤一郎をはじめ作家では佐藤春夫、実業家では小林一三らそうそうたる人たちがおいしい食べ物・飲み物を紹介しているんです。その中から30余編が、新仮名遣いでまとめられた本です。味を想像して読むと楽しいし、同じ味を自分で作ってみるのも一興。ウチの立ち飲みテーブルの上に置いていますので、気軽に手に取ってください」
(河出書房新社)

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