松下隆一(作家)とにかく養老孟司さんの答えが目から鱗
9月×日 寺越陽子著「高畑勲と『火垂るの墓』」(新潮社 1980円)を読む。NHKディレクターの著者が、38年前に公開された高畑勲監督の名作アニメ映画「火垂るの墓」(原作・野坂昭如)を巡り、ドキュメンタリー制作のために重ねた取材の経緯を書籍化した作品である。映画は、過酷な戦中戦後を生きた兄妹、清太と節子の物語だ。帯の「二度と見たくない傑作」という言葉は言い得て妙で、私自身も辛くて二度目は観ていない。寺越さんが高畑監督の創作過程を丹念に辿り、その厳格かつ真摯な創作姿勢を紐解いた内容に、深い感銘を受けた。高畑監督自身も空襲経験者だが、この映画を反戦のメッセージとしてつくったわけではないという。本書を読むと、確かに反戦という枠を超え、生への慈しみそのものを描いた映画だと感じられた。これを機に二度目を観ようと思った。
9月×日 養老孟司・﨑野隆一郎著「きみがきみであるために」(光文社 1980円)を読む。本書は﨑野さんが毎年続けている30泊31日のキャンプに参加した子どもたち(小学校4年生から中学3年生)が、養老さんに疑問や悩みをぶつける一問一答の構成となっている。とにかく養老さんの答えが目から鱗だ──(先生がえこひいきする)「それが社会なんだよ」。(友達の気持ちがわからない)「人のことがわからない、それは当たり前で、それこそが基準です」。(子どもの自殺が増えている。いつか僕も自殺したくなるのだろうか)「きみのその考え自体、この先に変わるんだよ。だから、もうちょっと生きてごらん。生きていないと変われないからね」。頑迷で嫉み深い私はときどき、養老さんのように生きられたら、どれだけ楽だろうかと思う。いや、養老さんの思考だけで人生は事足りるのではないか。人と比べず、好きなことをし、自分の尺度で考え、変化をしなやかに受け入れる。その姿勢に、自らの力で人生を切り拓くヒントがある。善か悪か、右か左かなどと凝り固まった我々大人たちこそ、読むべき1冊ではないかと感じた。



















