パチンコ業界は「不正との攻防」から「信頼の時代へ」

公開日: 更新日:

かつて「遠隔」はあったが現在はもう存在しない

 かつて、パチンコ店では本当に「遠隔操作」いわゆる「遠隔」が行われたことがあった。

 JR横浜駅西口にあった「ボナンザ」というパチンコ店で、パチンコ台に不正に部品を取り付け、店側が好きな時に大当たりを出せる遠隔操作、いわゆる「遠隔」を行っていたことが発覚し、関係者が逮捕された。今でも、この19年前の「ボナンザ事件」を根拠として、パチンコに遠隔はある、と言う人は多い。

 だが、パチンコ業界紙「シークエンス」の発行人・編集長である、POKKA吉田氏は、それを明確に否定する。

「パチンコ店が今でも遠隔をやっている、と主張する人は、すぐにボナンザの事例を言うんですが、遠隔は、おそらくあれが最後です。線香花火で言ったら、最後の玉が落ちた瞬間のようなものですよ。ボナンザが摘発された時でさえ、ほとんどの業界関係者が『まだやっている奴おったんか』っていうレベルだったんですから。あれ以降、遠隔が行われたという事例を、僕は知りません」

 パチンコ店で行われていた不正は、遠隔だけではない。POKKA吉田氏は、主に3種類に大別できるという。

「一般的に、20世紀後半ぐらいまでのパチンコ業界における不正といったら、大きく分けて3つあります。一番多いのは『内部不正』。店長とか役職者の背任行為ですね。この時代の不正といったら、多くの業界関係者はまずこの内部不正を思い浮かべるでしょう。その次に多いのが遊技機の改造ですよね。これはいろいろな言い方があって、たとえば『裏モノ』とか『Bモノ』とか、白でも黒でもない『グレー』とか。グレーってなんだよ、黒だろとは思いますけどね(笑)。遠隔操作も改造しないとできませんから、遠隔もここに含まれます。あとは『開店基板』とか、『モーニング基板』とかもありました。昔の新装開店では、初日から1週間ぐらいは本当に玉を出したいので、絶対に赤字になるような基板で営業したり、朝イチで当たる基板を使ったりとかですね。これらは全部、不正改造です。もうひとつは、ゴト関係です。磁石の使用とか、玉の持ち込みとか。特殊な器具や手口を使って、不正に玉とかメダルを出すことです。夜中に店舗に侵入して、機械の基板を勝手に交換して、営業中に特定の打ち方をして玉を抜く、みたいなのもありました。これは荒業と高度な技を組み合わせたようなゴト行為です。つまり、当時の不正としては、スタッフの内部不正、遊技機の不正改造、ゴト関係、この3種類ということになりますね」

 POKKA吉田氏は、この3つのうち、最も多かった内部不正に関しては、特に話すことはないと言う。内部不正はパチンコ業界に限ったことではなく、いつの時代も、どんな職種、どんな会社でも起きることで、つまりは「人間」の問題だからだ。

 残る遊技機の不正改造と、ゴト関係は、パチンコ業界特有のものだが、この2つの現状は、どうなのだろうか。

PSIOでは不正の通報を受付 投稿者の考えとは裏腹に…

「毎日、パチンコ・パチスロファンからの投稿が来ますね」

 そう話すのは、PSIO(ピシオ・遊技産業不正対策情報機構)の浜田昭文室長だ。PSIOはパチンコ・パチスロ業界における不正行為や違法改造を排除し、ファンが安心して遊べる環境を作るための組織で、2001年10月に設立された。パチンコ・パチスロメーカーの組合や全国のホール組合等、パチンコ・パチスロに関連する主要な7団体によって構成・運営されている。

 捜査や取り締まりを行う機関ではなく、専用フォームによって不正の通報を受け付け、それをまとめて、関係する都道府県の警察本部に提供する。通報はファンからのものもあれば、パチンコ店関係者からのものもある。

「昨年(2025年)の投稿を不正種別で仕分けをすると、『遠隔操作』『不正改造』の2つで、約82~83%になります。ちなみに、システム的に、同じ人物からの投稿は1件としてカウントするようになっています。同じ人が立て続けに複数回送っても、1件としか数えないということですね」

 あくまでも投稿者の考えではあるが、「遠隔操作」と「不正改造」が多くを占めるのは、どういうことなのだろうか。浜田室長の口からも、ボナンザの名前が出てきた。

「もうずいぶん前の、ボナンザまでさかのぼらないと、遠隔操作はありませんよ。なのに、なぜ遠隔操作っていうのが多いのかというと、負けて腹が立ったファンのガス抜きの場になっているということもあるのかもしれません。不正改造として投稿されてくるのは、主に『釘に玉が引っかかった』とかですね。最近は画像付きの投稿が増えているので、そういう画像を添えてきます」

 つまり、遠隔操作はないし、不正改造といっても一般的にイメージする「裏モノ」などのことではなく、釘や玉に関すること、というわけだ。

 残りの投稿には、パチンコ店が遊技者にパチスロの設定をほのめかす「設定示唆」や、ホール関係者が遊技者にパチスロの設定情報を伝える「設定漏洩」などもあるという。

 設定示唆は風営法に基づく広告宣伝規制違反や、パチンコ業界が定める自主規制に違反する可能性があり、場合によっては営業停止などの処分を受ける。設定漏洩は不正競争防止法違反、背任罪、業務上横領罪などにあたり、近年では逮捕者も出ている。

 PSIOはすべての投稿を仕分けて各警察本部に送るだけで、その後に警察がどう対応したか、PSIOが知ることはない。

 では、実際に検査をする機関はあるのだろうか。

無通知で営業中に立ち入り検査 不正は即座に警察通報

 検査を行うのは、一般社団法人遊技産業健全化推進機構(以下、機構)だ。おそらくパチンコファンを含む一般の人にはあまり馴染みのない名前だろうが、パチンコ業界の中では、とても重要な役割を果たしている団体だ。機構は2006年8月に「誰もが安心して不正の無いパチンコ、パチスロを楽しんでいただけるよう、業界団体が長年にわたり、協議検討を行った結果、遊技機の不正改造などを根絶する目的で設立された第三者機関」(公式サイトから)だ。

「ウチでも不正投稿を受け付けて、投稿もありますし、電話もかかってきますよ。電話番号は公表していませんが、調べて電話してきます。内容は『遠隔されている』『回らない』『監視されている』『顔認証で自分だけ当たらない』『機械の不正改造』などですね。年齢層は30代から高齢の方まで、幅広くいらっしゃる印象で有用な情報を頂くこともあります。基本的には淡々と『普通に考えていただければ分かりますよね』と説明させていただいて、時には『そう思われるのでしたら、そういうホールさんにはもう行かない方がいいですよ、他のホールさんでご遊技されたらいかがですか』という話になることもありますね。」

 そう話すのは、機構の石井裕事務局長だ。

 立ち上げから現在まで、機構で20年間、活動を続けてきた石井事務局長は、設立の経緯から、活動について、こう説明する。

「2000年ぐらいはパチスロ4号機が全盛の時代で、不正改造機、いわゆる裏モノっていうのが多かったのは事実です。当然、『このままでいいのか』ということになりまして。違法行為の排除、業界の健全化、ユーザーの利益の確保のため、不正改造機撲滅に業界全体で取り組む必要が出てきたということですよね。業界内部の方々も頑張ってやられていたと思うんですが、内部のチェックだけでは限界があるということで、第三者機関を立ち上げて、そこで見張っていこう、というのが機構ができた経緯です。大きな活動内容の1つは、『誓約書』を提出していただいたホールさんに、『随時・無通知による立ち入り検査』を実施することです。検査する内容は、パチンコ・パチスロの遊技機と、玉やメダルの計数機ですね。予告なく営業中のホールさんに検査に入ります。我々はあくまでも検査に行って、何かあった場合でもホールさんには何も言わずに『検査終了しました』と伝えて店の外に出て、外から当該の警察本部に通報する、ということをやっています」

 機構は2007年の4月から、全国のホールをランダムで訪れ、遊技機の検査を始めた。いきなり、制服姿の検査員が予告なしに営業中のホールに入るため、当初はホールからの反発や立ち入り拒否もあった。だが、設立から20年経った今では、ホールも機構の存在意義を理解しているため、おおむね協力的だ。

 実際、立ち入り検査で不正を見つけることは多いのだろうか。

「この20年で最も多かったのが、今から9年前になりますが、2017年の100件程度です。我々が通報する基準というのは、あくまでも遊技機が検定を通った(※新しい遊技機が都道府県の公安委員会から、ホールに設置して営業することを許可されること)時と違う状態であること。かしめ(※遊技機の主基板が外されないよう、厳重に封印する仕組みのこと)が切られている、封印シールが破れているなどもそうですし、異なる部品が付いている、という場合も通報対象になりますね」

 数千店舗で数万台を検査してのこの数字。内訳はどうなっているのだろう。

機構が見つける不正の半数程度は無承認変更の「部品取り」

 石井事務局長はさらに詳細を教えてくれた。

「ピークは2015~2017年ですが、その中で、本当に悪質なのは1、2割です。ただし、かしめやシールの破損程度でも、我々が通報して警察が立ち入って調べたら不正基板が付いていた、ということもあるのかもしれません。その悪質なもの以外の多くは、部品取り、特にパチスロのホッパーですね」

 遊技機における部品取りとは、パチンコ・パチスロ遊技機の部品(釘、アタッカー、ホッパー、ハーネス、セレクターなど)が壊れた場合に、撤去した別の遊技機などから部品を外して流用することを指す。本来、部品交換は都道府県公安委員会への変更承認申請が必要だが、実際には「同じ部品だからいいじゃないか」と、以前から部品取りが行われてきた。

 POKKA吉田氏もこう指摘する。

「2023年11月に業界団体である余暇進(一般社団法人余暇環境整備推進協議会)の秋季セミナーの行政講話で、警察庁生活安全局保安課の課長補佐が、こう発言しました。『遊技機の部品を正規の部品以外に無承認で変更する事案等が後を絶ちません。いま一度、製造業者、販売業者等の遊技機の流通に携わる関係者においては、それぞれの場面で適切な点検確認等を実施していただき、部品取りを含む不正な行為が発生しないこと、そして、型式の同一性が保たれていることをしっかりと担保していただく必要があります』。つまり、簡単に言うと『部品取りをしないように』ということです。部品取りというのは、遊技機の無承認変更ですから、犯罪なんですよ」 

 パチンコ業界を管轄しているのは警察庁であり、その中の実質的なトップは、警察庁生活安全局保安課長だ。業界団体での保安課長や課長補佐の講話は、業界に対して大きな影響力を持つ。2023年のこの発言も、部品取りに関して、業界に強い警告を発したということだ。

 一般のパチンコファンからすると、同じパーツを交換するだけのことが、なぜ犯罪になるのか、不思議ではあるはずだ。家にある電化製品が壊れて修理に出す時に、警察の許可を取る必要はないのだから。

 だが、遊技機に関してはそれほどまで厳しく法律で定められ、また、パチンコ業界自身もその法律を守るべく、全力で取り組み続けているのだ。

 2020年代に入ってから、機構による通報件数はかなり少なくなり、2023年以降は年間数件、そして2025年は1件(計数機の整備不良)だったという。

遊技機にもホールにも法改正で不正に厳しく

 近年、ここまで不正が減った理由を、POKKA吉田氏に解説してもらった。

「まず、不正改造についてです。遊技機の不正改造で検定取り消しになった例で言うと、2000年7月の『キングガルフ』『リズムボーイズ』など、大東音響というメーカーのパチスロ6機種が最後です。衝撃的な事件だったので、これは当時パチスロを打っていた人なら、覚えている人も多いと思います。この事件からも分かるんですが、この前も後も、不正改造遊技機って言うと、パチンコよりもパチスロが圧倒的に多かったんですよ。もっと昔、90年代前半辺りまではパチンコの不正もたくさんあったみたいなんですけど、4号機の時代(1992年~)になってからは、もう不正改造と言えばパチスロです」

 不正改造だけでなく、当時はパチスロ機の射幸性の高さも問題になっていた。それも一つの引き金となり、2004年7月にパチンコ・パチスロの規則改正が行われた。この規則改正が、遊技機の不正対策としても大きかったと、POKKA吉田氏は指摘する。

「2004年に改正された風営法施行規則の第8条で『著しく射幸心をそそるおそれのある遊技機の基準』を定めているんですが、その中に『容易に不正な改造その他の変更を加えられるおそれのある遊技機であること』という規定があります。これによって、以降はすべての遊技機の基板にかしめが採用されることになりました。これが不正防止対策としては非常に大きかったと思います。もう一つ、その翌年、2005年10月に風営法が改正されたことも大きいですね。この中の欠格要件として、無承認変更違反の罪に問われた者というのが追加されました。それ以前は仮に無承認変更で営業停止処分を受けても、90日でした。それが2005年以降は、営業停止ではなく、違反した店舗のチェーン店全店舗の営業許可を取り消すことが可能になりました」

 すべての遊技機にかしめ基板が採用されたことで、物理的に基板に触れることが難しくなったこと、そしてもしも無承認変更で罰金刑を受けた場合は全店舗の営業許可が取り消しになる可能性があること、その2つにより、パチンコ業界の健全化が一気に進んだわけだ。

この業界はきれいになってきたが気を抜くと不正は起きる

 2001年にPSIOが設立され、一般のパチンコファン、あるいはホール関係者を含むパチンコ業界内部の人からの、匿名での通報システムが整えられ、その通報は各都道府県の警察本部へと送られるようになった。

 2004年と2005年の法改正により、そもそも不正がしにくくなり、さらには不正を行った事業者への罰則がとてつもなく大きくなった。

 2006年に遊技産業健全化推進機構という第三者機関が設立され、事前通告なしで営業中の店舗への立ち入り検査が、日々、行われるようになった。

 21世紀に入り、これだけ何重にも対策が施されたのだから、不正が激減するのは当然だろう。

 機構の石井事務局長はこう言う。

「20年前から見てきて、この業界がきれいになってきているというのは事実ですね」

 しかし、同時に、業界関係者に向けて、こう警鐘を鳴らす。

「『もう不正はゼロだ』と言いたいところですが、残念ながら、無承認変更もそれ以外にも、まだあります。それに、気を抜くといつでも不正は起きるんじゃないか、という思いもあります。だからホールさんも常にご自身で点検、確認をしっかりしていただいて、甘い言葉に騙されたりしないようにしてほしい、と思います。もちろん、我々も不正がない環境を作るために、今後も全力を尽くしていきます」

 世の中から、悪を完全になくすことは不可能だ。

 だが、この四半世紀にわたり、パチンコ業界はその不可能に挑み続けている。

 誰もが安心して、納得して、遊べる環境を作るために。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    堺雅人「VIVANT」20%超えも視野に! “チンギス祭り”の女性フィーバーが第3シーズン待望論を後押し

  2. 2

    ゴジラ松井巨人の独壇場に待った! ライバル2球団が水面下で進める「本気の補強」…FA市場で争奪戦勃発へ

  3. 3

    金融資産1400億円の承認欲求モンスター…号泣会見GMO熊谷正寿社長「命の砂時計」のムダ嫌う公私混同

  4. 4

    党利党略で総務省通知ガン無視…維新吉村代表の「大阪都構想」同日選固執は“反社組織”的な法律軽視

  5. 5

    地獄のPL学園生活で桑田真澄さんは「天使」だったけど…巨人で一度だけ「怖い」と思ったことがある

  1. 6

    「不同意性交で被害届提出」と報じられたMatt 目撃されていた新宿二丁目での行状

  2. 7

    故・伊良部秀輝は「らしい理由」でPL学園の誘いを断った…僕との出会いは小学5年生

  3. 8

    沢田研二が運転免許返納のウラ…元マネが語ったステージでの“異変”と、80歳現役宣言への長い道のり

  4. 9

    (8)松井監督が語っていた「若手育成」への熱情 《なぜ巨人は弱体化?》に返した痛烈な答え

  5. 10

    芦田愛菜「マルモのおきて」以来のヒット作「南田南弁護士」でついに“覚醒” の舞台裏