佐川光晴(小説家)訳文も素晴らしい「もう一つの『風と共に去りぬ』」

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8月×日 フォークナー著「征服されざる者たち」(河出書房新社 3960円)を読む。5月23、24日、日本文藝家協会創立100周年記念文士劇『風と共に去りぬ』が新宿・紀伊國屋ホールで上演された。私に配役されたフランクはスカーレットの妹スエレンの婚約者でありながらスカーレットの2番目の夫になるという不届き者にしてお人好し。人生初の芝居は楽しかったが、「奴隷国家」アメリカの好戦的な白人を演じることには心理的な抵抗がなきにしもあらずで、終演後も関連書を読んでいる。「もう一つの『風と共に去りぬ』」と帯文にある連作短編はやはり南北戦争下の南部が舞台。12歳の白人ベイヤードが幼なじみの黒人リンゴーと数々の冒険を繰り広げて、最終話で2人は24歳になっている。少年だからこその無鉄砲、機転、ユーモア、洞察を生き生きと描く小野正嗣さんの訳文が素晴らしい。白眉は「襲撃」と最終話「バーベナの香り」。

8月×日 吉戒修一著「元裁判官が語る 人生の気づきと選択のことば 138」(恒春閣 2970円)を読む。2月からweb小説推理(双葉社)で連載していた「裁判長の恋」が8月の配信で最終回を迎えた。昭和40年生まれの刑事裁判官山村判事は若き日の失恋の痛手から独身を続けてきたが、60歳にして東京高等裁判所部総括判事に任じられ、また同じ年の女性校長と意気投合して結婚を考える。ところが余命幾ばくもない元判事の先輩からアラフォーの一人娘をもらってくれと暗に促されて、思いもよらぬ三角関係に陥る。

 近年、冤罪事件などにより、司法への信頼が揺らいでいる。抜本的な改革が求められるが、検察官や裁判官への徒(あだ)なバッシングはいただけない。

裁判の非情と人情」(岩波書店 946円)は日本エッセイスト・クラブ賞受賞の名著で著者の原田國男氏は刑事裁判官だった。こちらの吉戒氏は民事裁判官。法務省ではハンセン病問題やヘイトスピーチ対策に取り組まれた。良質の裁判官がどれほど勤勉かつ真摯なのかを知るのには格好です。

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