脱北テーマ映画の監督が語る 国家に壊される庶民のリアル
映画「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」は、中国の貧しい農村へ嫁として売り飛ばされた北朝鮮の中年女性B(ベー=仮名)のドキュメンタリー。北に残してきた夫と息子を脱北させ、さらに自らも韓国へ亡命しソウルでの再会を試みる姿を韓国の新鋭ユン・ジェホ監督(37)のカメラが捉えた。
――監視社会の息苦しさ、恐怖がとてもリアルに映っているが、撮影して危険はなかったのですか。
「もちろんありました。車で撮影中、公安当局の車両がすぐ横を通ったことがあるのですが、こちらの車を止められて映像を検閲となれば、身柄を拘束されていた恐れがあります。止められなくて、本当に運が良かった。撮影でも目立った行動はできないので、スマホの動画撮影で行い、それでも危ないときは対象も見ないで、スマホだけ向けて撮っていました」
――脱北ブローカーのマダムBはどうやって身を守っていたのでしょう。
「脱北者を迎えに天津まで行った際、10時間もの道中でタクシーが現地の若者の車と事故を起こしてしまったことがありました。向こうは、こちらの言葉から、中国人ではないと分かり、『当局に通報するぞ』と脅してきた。マダムは何がしかのカネを渡して対処していましたが、こうした住民どうしの密告もあるし、いつ何があるか分からないという緊張感を持っていました。普通の市民が生活費のためにブローカーをやるケースが多いのですが、街のやくざに脅されたり、儲けていて生意気と、同業者を当局に売るケースもあったそうです」