「センスの哲学」千葉雅也氏

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「センスの哲学」千葉雅也氏

「ファッションのセンスがいい」「ユーモアのセンスがある」「ビジネスセンスが抜群」。このように褒められると、何か無条件に優れているように感じる。一方、「センスがない」と言われてしまうと、素質がなく丸ごと否定されているように思える。普段から何げなく使われる「センス」という言葉。そもそもこれは何を指しているのだろうか。

「“分かる人には分かるけれど、分からない人には分からない”といった具合に、センスという言葉にはトゲがあり居心地の悪さを感じます。本書ではセンスは育てることができるという立場を取り、努力ではどうしようもない部分というイメージのあるセンスの“脱神秘化”を試みています」

 著者は気鋭の哲学者であるが美術制作にも携わり、芸術への造詣も深い。そこで、絵画や音楽など芸術の諸ジャンルを横断しながら、センスの身につけ方を考察。芸術入門書の側面も持つが、人生のさまざまな場面で役立つのがセンスであることも示している。

 センスを辞書的な意味でひもとくと、「直観的で総合的な判断力」と定義することができる。例えば絵画に対してこのようなセンスを発揮するには、幼少期から芸術に触れるなど文化資本に恵まれた人が有利となる。しかし、ものごとを“リズム”として捉えることを意識すれば、センスはいくつからでも磨かれるという。

「リズムとは、強いところと弱いところの“並び”。ものごとの多くは凸と凹のリズミカルな配置や組み合わせでできており、これを意識するだけでもものの見方が変わってきます。目の前にある、ずんぐりとしたウイスキーグラスと細いペンに、違いや対比、そしてリズムを意識できるようになれば、それまで素通りしてきたものの面白さに気づくことができるようになります」

 本書では、著者の出身地である宇都宮名物の餃子のリズムの捉え方が大真面目に解説されている。口に入れた瞬間の熱さとカリカリ感。その後に来る肉の軟らかさやうまみ。酢の酸味と醤油のコク。言われてみれば、実に複雑なリズムが多層的に絡まり合っているではないか。自分の好物や日常生活の中でも、リズムを意識してみたくなる。

「ものごとを意味や目的に直結させないで楽しめるようになると、価値観や考え方が深化し、センスのよさにつながっていきます。実はセンスとは、“こうあるべき”から脱却して無駄や余白を楽しむ能力でもあると思います」

 本書の表紙に使われている抽象絵画も、読後にリズムを意識して見てみると、筆遣いや色の配置、凸凹のバランスに気づき、以前は見えなかった面白さを感じられるようになってくる。ほかにも、小さな、ささやかなことを言語化する練習もセンス磨きに役立つという。

「センスが育ってくると、人間関係においても気づきが生まれ、豊かなコミュニケーションが可能になる。これはビジネスにも役立ってくるでしょう。センスという言葉がものごとを見直すきっかけとなり、人生を豊かにする役に立てればうれしいですね」

(文藝春秋 1760円)

▽ちば・まさや 1978年栃木県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科超域文化科学専攻表象文化論コース博士課程修了。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。「動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学」「勉強の哲学」「現代思想入門」など著書多数。

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