「女性が科学の扉を開くとき」リタ・コルウェルほか著 大隅典子ほか訳

公開日: 更新日:

「女性が科学の扉を開くとき」リタ・コルウェルほか著 大隅典子ほか訳

 ノーベル賞の自然科学3賞(物理学/化学/生理学・医学)の受賞者の女性が占める割合はわずか2%だという。自然科学分野における極端なジェンダーギャップを身をもって体験してきたのが、本書の著者リタ・コルウェルだ。

 コルウェルは米国の草分け的な微生物学者・分子生物学者・生態学者で、米国国立科学財団(NSF)の初の女性長官を務めるなど、研究と行政の両分野で大きな業績をなした科学者だ。本書は、コルウェル自身の経験を踏まえて、女性科学者の前にいかに大きな壁が立ちはだかっていたかが語られる。

 コルウェルが、パデュー大学に入ったのは1952年。米国の研究所で働く女性科学者のほとんどが修士号しかもっておらず、男性教授の助手として働き、性的な対象にされることは珍しくない時代だ。多くの学会やワークショップはほぼ男性だけで占められ、論文発表の場である学術誌の編集長もすべて男性。

 それでもこうした性差別に対しての異議申し立ての声が徐々に上がってくる。MIT(マサチューセッツ工科大学)では、学生の3割が女子学生なのに女性教員が8%に満たないことは是正すべきとの報告書を作成。この報告書が全米のモデルとなり、2004年にはMITに初の女性学長が誕生した。

 コルウェルの科学者としての業績も読みどころ。コレラ菌が流行していない時期にどこに存在しているかについて従来の定説を覆す仮説を論証したり、米国同時多発テロ事件直後に発生した炭疽菌入りの手紙の送り主を捜索するプロジェクトも、科学研究の現場の様子がダイナミックに伝わってくる。

 コルウェルは言う。「人口の100%から生まれる最良の結果は、人口の50%から生まれる最良の結果よりつねに優れている」と。学問に限らず、社会におけるジェンダーギャップはいまだ解消していないが、この言葉を常に念頭に置いておくべきだろう。 〈狸〉

(東京化学同人 3520円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ドジャース大谷翔平32歳「今がピーク説」の不穏…来季以降は一気に下降線をたどる可能性も

  2. 2

    高市政権の物価高対策はもう“手遅れ”…日銀「12月利上げ」でも円安・インフレ抑制は望み薄

  3. 3

    元日本代表主将DF吉田麻也に来季J1復帰の長崎移籍説!出場機会確保で2026年W杯参戦の青写真

  4. 4

    NHK朝ドラ「ばけばけ」が途中から人気上昇のナゾ 暗く重く地味なストーリーなのに…

  5. 5

    京浜急行電鉄×京成電鉄 空港と都心を結ぶ鉄道会社を比較

  1. 6

    ドジャース佐々木朗希の心の瑕疵…大谷翔平が警鐘「安全に、安全にいってたら伸びるものも伸びない」

  2. 7

    【時の過ぎゆくままに】がレコ大歌唱賞に選ばれなかった沢田研二の心境

  3. 8

    「おまえもついて来い」星野監督は左手首骨折の俺を日本シリーズに同行させてくれた

  4. 9

    ドジャース首脳陣がシビアに評価する「大谷翔平の限界」…WBCから投打フル回転だと“ガス欠”確実

  5. 10

    巨人が李承燁コーチ就任を発表も…OBが「チグハグ」とクビを傾げるFA松本剛獲得の矛盾