著者のコラム一覧
スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966-2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。

『イエスタデイ』複雑で陰影のある情感を込める曲作りの普及も功績の1つ

公開日: 更新日:

アルバム『ヘルプ!』(1965年8月6日発売)③

 1曲目(無料)から読む

■『イエスタデイ』②

 ではこの『イエスタデイ』、どこが名曲なのか。どんな音楽的要素が名曲たらしめているのか。

 もしかしたら、名曲だと段階的に認められていった昭和の時代には、このような問いが不要だったかもしれない。ただ「イエスタデイ=名曲」という前提が説明なしに確立している現代においては、あらためて「ゼロから」説明しておく意味もなくはないように思う。

 名曲性の1つ目。まずはメジャー(長調)とマイナー(短調)の交錯。

 この連載でも、いくつかの曲について「メジャーかマイナーか分からん」的コメントをしてきた。1つの曲の中にメジャー/マイナー=明/暗を織り込み、複雑で陰影のある情感を込める曲作りの普及も、ビートルズによる功績の一つだと思う。

↓………ここから続き………

 この曲も歌い出しの「♪イエスタデイ」はメジャー=晴れなのだが、続く「♪オール・マイ・トラブルズ・シームド・ソー」でいきなり雲行きが怪しくなり、「♪ファー・アウェイ」でマイナー=空が暗くなる。まさに「メジャーかマイナーか分からん」という陰影の付け方が、名曲たらしめる要因の一つだ。


 2つ目、私がいちばん好きなパートであるBメロ冒頭(試聴リンク再生時間「0:39」から)「♪ホワイ・シー・ハッド・トゥ・ゴー・アイ・ドント」のところのコード進行である。

 具体的には「♪ハッド・トゥ・ゴー」でメロディーがグッと上がる(ラ→シ→ド→キーはF)。対してイヤホン左側から聴こえるベース(ここではチェロ)がズンズンズンズンズン(ラ→ソ→ファ→ミ→レ)と下がる。

 この相反する動きの美しさたるや(ぜひ試聴リンクから聴いてみてください)。つまりメロディーとベースが合わせ鏡のような効果を発揮するのだ。

 あと、ちょっと細かいけれど3点目「1:37」から、イヤホン左側でバイオリンが高音で「♪ヒーーーーーッ」とミ(A)の音を弾きのばすところのアレンジも実にグッとくる。

 などと、やぼながら音楽的に解析してみたが、まぁ、細かい話はともかく、たとえ偶然に生まれたにせよ、「ロック」の枠を超えた申し分のないメロディーだと、自信をもっておすすめできる。

 そして、いよいよポールが頭角を現し、中後期ビートルズのキーマンにのし上がっていくという歴史絵巻の振り出しの曲と考えるとなおさら感慨深い。

 あっ、この曲を名曲たらしめた最大の要因は、言うまでもなく、そのポールの横にジョージ・マーティンがいて、いいアドバイスをしたということだな。

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