理不尽な世を行き抜くかっこよさに共感し合える「テヘランのすてきな女」金井真紀著/晶文社(選者:稲垣えみ子)

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「テヘランのすてきな女」金井真紀著/晶文社

 いま世界で最も注目を浴びている国、イラン。むろん私も大注目……と言いたいところだが、改めて考えると「ホルムズ海峡」「石油」「イスラム教」「反米」「ヒゲとターバン」くらいしか思い浮かべることができない。あ、そういえば近所の絨毯屋さんがイラン人。世話好きで話し好きで温かいおじさんだ。そのおじさんと、ニュースで見聞きする厳しいイランが結びつかない。要するに私はイランのことなんてこれっぽっちもわかっていないのだ。

 ってことで、SNSの投稿で知ったこの本を買った。とりわけ「すてきな女」というタイトルに惹かれた。イランの女性といえば自由がなくてかわいそうと勝手に思っていたけれど、実はすてきなんかい! 面白そう! と思ったのです。

 著者の金井さんは文筆家兼イラストレーターで、そもそもはイラン女子相撲の取材をするつもりで自ら相撲の稽古に励む本気の準備中に「反スカーフデモ」(「スカーフのかぶり方が不適切」という理由で逮捕された女性の急死を機に始まった大規模な反政府行動)が勃発、相撲の取材などしている場合じゃなくなってしまう。でもそんな今だからこそイランに行きたいと、当地に飛び女性たちに次々と話を聞くことに。そして興奮する。なぜって、彼女たちはめちゃくちゃかっこよかったからだ。

 街では風紀警察がスカーフのかぶり方を監視しているし、異性と握手しただけで99回の鞭打ち、音楽をかけて踊っていたら逮捕、スポーツするときも全身を覆ってスカーフ(相撲はスカーフが取れたら負け!)という彼の地の法律やシステムや慣習にはいちいち驚く。でも女たちは負けてない。それぞれの価値観を握りしめながら、強くしたたかに勇敢に生きていた。私が一番好きだったのは、子供の頃サッカーがしたくて男のふりをしたというマルヤムさんの話。抜群にうまかったからキャプテンも務め他のチームの助っ人にも呼ばれたが、女であることを隠しきれなくなり突然姿を消す。そして後に女子代表チームの監督として復活。まるで映画のような人生である。

 結局、我らは皆同じなのだ。世の理不尽の中でどう生き抜いていくか、自分はどうありたいのか、どう仲間をつくっていくのか、そのことにおいて我らはどれほど違う文化を生きていても全面的に共感し合えるし、その共感こそが自由なのだ。それは、いま世界中の人が知るべき大切なことである。

 読み終えた時、心に爽やかな風が吹くことを保証する。 ★★★

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