伊東純也〈前編〉 物静かなイナズマはオランダの英雄ヨハン・クライフに憧れていた(甲府元監督・佐久間悟)

公開日: 更新日:

FW伊東純也(ベルギー1部ゲンク/33歳)

 前回カタールW杯以後にドイツ、ブラジル、イングランドを撃破して北中米W杯の大躍進が期待される日本代表。主役を演じると期待されているのが、イナズマの異名を持つ33歳の快速FW伊東純也だ。プロキャリアの第一歩を踏み出した2015年、甲府の指揮官だった佐久間悟氏に聞いた。(今回はその【前編】)

  ◇  ◇  ◇

 ──佐久間さんは伊東純也が神奈川大学から甲府入りした2015年に直々に指導しています。

「2015年は当初、樋口靖洋監督(WEリーグ・エルフェン埼玉)体制でスタートし、5月にGMだった私が監督を務めることになりました。

 その年に入ってきたのが純也。樋口さんの時は『4-4-2』の右MFがメインでしたけど、私が指揮を執るようになってからは1トップの背後のシャドウが主戦場になりました。稲垣祥(名古屋)と横並びでボールを奪った後にカウンターを仕掛けるというスタイルがよくフィットして、純也のよさも発揮された印象でした」

 ──もともと伊東選手はどのような経緯で甲府入りしたんでしょうか?

「2014年秋に横浜にあったマリノスタウンで横浜F・マリノスと練習試合をしたんですが、そこに練習生として来てもらったのが最初だと記憶しています。

 当時、甲府の監督は城福(浩=東京V)さんで、GMだった私はスカウトの森淳さんと一緒に純也のプレーを見ていました。

 練習試合の3本目に彼を使って、試合後に城福さんに感想を聞いたところ、『取った方がいいね。だけど時間がかかるよね』と言うんです。森さんも『神奈川大学の試合で前半10~15分にすごく目立つプレーをしたと思ったら、残りの65~70分間はほとんどボールに関与しないし、消えてしまう。そういう選手なんですよ』と話していた。その課題克服がプロ1年目のテーマになりました」

 ──「4-4-2」から「5-4-1」に布陣変更してシャドウに据えた時、伊東選手はどんな反応を見せましたか?

「純也はいつも物静かで、何も言わない人間。僕が少し手厳しいことを言ったとして、他の選手だったら何かしら反応するような場面でも、『はい』と言って、黙々と取り組んでいるタイプでした。『消える時間をなくそうよ』と声掛けしたこともありましたけど、その時も特別な反応を示さなかったと思います。

 その彼が『僕はもっと長く使ってくれれば、活躍できますよ』とアピールしてきたことが一度だけありました。

 それは8月のホーム・神戸戦でバレーの決勝点をアシストした時。その試合の純也は先発でしたけど、この頃の彼はスタートから出たり出なかったりだった。本人の中で思うところがあったんでしょう。自分から何か言うのがすごく意外で、今も強く印象に残っていますね」

 ──22歳だった伊東選手にはそれだけの確固たる自信があったということなんでしょうね。

「そうですね。純也のプレーで素晴らしいなと思うのは、どんな時もスペースを意識してプレーするということ。相手にマークされたら、一瞬下がって距離や角度を取ってフリーになり、簡単に前を向いたりするんです。クロスボールを上げる際も、少し前目に流して味方を飛び込ませたり、空中で少しジャンプさせるといった絶妙の感覚を持ち合わせていますね。

 過去の日本代表を担ってきた遠藤保仁さん(G大阪コーチ)、中村憲剛さん(川崎コーチ)らもそうですけど、スペースをうまくつかえるかどうかというのは、サッカーにおいて非常に重要な要素なんです。

 純也が練習中の4対4などを通して独特の感覚を持ち合わせていることにはすぐ気が付きましたけど、その一挙手一投足を見ているうちに、『彼はヨハン・クライフだ』と感じるようになってきた(笑)。『フライング・ダッチマン』という異名で知られる通り、クライフはスペースに飛び込んで数多くのゴールやアシストを記録していますからね」

スペースをうまく使う能力が如実に出ていた

 ──確かにそうですね。

「僕は大宮時代、ピム・ファーベーク監督(元韓国・豪州・オマーン代表監督)の下でコーチを務めましたが、『フェイス・トゥ・ザ・ゴール』という言葉を口癖のように言われました。ゴールに向いた体勢を作る、つまり、攻撃能力を高める体勢を作るということなんですが、これはオランダでは基本的な概念。純也はそれを自然とできる選手ですし、その能力は傑出したものがあるんです」

 ──伊東選手自身もクライフに憧れていて、2016年の柏移籍後にはクライフがつけていた14番を自ら背負ったと言います。日本代表でも14番が定着していますよね。

「そうですね。本人も『自分はクライフに似ている』という自覚がどこかにあるのかもしれませんね(笑)。

 3月のスコットランド戦の決勝点も、鈴木淳之介選手(コペンハーゲン)の左サイドからの折り返しを塩貝健人選手(ヴォルフスブルク)が落とし、そこに飛び込む形でしたけど、スペースをうまく使う能力が如実に出ていました。

 そういやって日本代表でもキャリアを積み重ねているのを見ると、本当に嬉しい限り。2026年W杯でもその能力を遺憾なく発揮して、日本の快進撃の原動力になってほしいと願っています」 (【後編】に続く)

 (聞き手=元川悦子/サッカージャーナリスト、絹見誠司/日刊ゲンダイ)

▽いとう・じゅんや:1993年3月9日生まれ。神奈川・横須賀市出身。33歳。中学時代は横須賀シーガルズでプレー。逗葉高から神奈川大。3年時にJ甲府入りが内定。2015年にプロ契約。翌年にJ柏に完全移籍。2019年にベルギー1部ヘンクに移籍。2022年7月にフランス1部のスタッド・ランスに移籍。2025年8月に古巣ヘンクに復帰した。2017年に日本代表初招集。翌年9月のコスタリカ戦で代表初ゴール。2022年のカタールW杯に出場して16強入りに貢献した。スピードスターぶりから愛称は「稲妻」。身長176cm・体重66kg。

▽さくま・さとる:1963年7月7日生まれ。東京都出身。埼玉・城西大川越高から駒沢大。卒業後にNTT関東(現J大宮)でプレー。引退後はNTT監督、大宮のフロント入り。その後は大宮、甲府で監督を歴任。2016年には甲府の副社長、GM、監督の三足のわらじを履いた。指導者としてJ2優勝、2度のJ1昇格、天皇杯制覇の実績がある。2021年3月にJ甲府を運営するヴァンフォーレ山梨スポーツクラブの社長に就任した(3月をもって退任)。

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