日本の相続税率は世界トップクラス、「相続が3代続くと財産がなくなる」の由来
日本は、世界でもトップクラスの最大55%という相続税率の高さを誇る。「相続が3代続くと財産がなくなる」という言葉が一般にも広く知られるようになったのは、そのような現状からだろう。しかし、「財産が失われてしまうのは、何もしなかった場合のことです。」そう語るのは『相続の処方箋』(発売:講談社)の著者で、芦原会計事務所所長税理士の芦原孝充氏だ。(以下、本文から抜粋しています)
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わが国の相続税制度は、まだまだ未熟です。一生のうち一度か二度しか相続を経験しない一般の方々には、あまり理解されていないことではありますが、この未熟さを端的に表しているのが、先の「相続が3代続くと財産がなくなる」の言葉です。
この表現に対し、多くの方々は「相続すると、相当な税金を搾り取られる」という意味合いを想像するようですが、実はこれは、わが国独自の相続税制度に起因するものなのです。
現在の日本において財産は、相続順位の同じ者(兄弟姉妹)の間では「平等に分ける」ことを考え方の基本においています。兄弟姉妹が2人いれば2等分、3人なら3等分……。この均等相続の下では、子どもが多いほど、財産が外部に流出していくということになります。
単純に、兄弟姉妹3人のうち2人が独立した場合、家の財産が一気に減っていく。こうした状況から、財産は3代でなくなるという事態に陥るわけです。
この表現が使われる背景には、これまで日本において伝統的に行われてきた「家督相続」の存在があったからだと推測されます。
戦前までの相続は、家督制度が主流でした。家督相続においては、家族の主となる代表者のみが家の財産や権利を継承することができました。家長が親の財産の100%近くを受け継ぐことで、代替わりの際の目減りをなくし、一家は何代にもわたって安定的に財産を相続できたのです。ところが、わが国の戦後改革では、民法に「均等相続」を導入しました。兄弟姉妹の間では財産を均等分割する考え方が主流になっていったのです。
均等に相続すれば、あっという間に財産が流出するのですから、「家」が続くはずがありません。「財産が3代でなくなる」とは、戦後180度変化した家のあり方を指す言葉でもあるのです。
一方の相続税は、民法をベースにした税制度です。相続という行為に対して税を取ろうとする目論見ありきで作られた相続税は、民法の法体系に後付け的に手を加えた仕組みであることから、「細かい部分で矛盾がある」、「法律的に詰めきれていない」などと考えられています。
しかし先に述べたように、一般的に相続に直面する機会は、人生で一度、二度くらいのものです。したがって、一般には「そういうものか」と、とくに問題視されることもなく通りすぎていくように思います。