相続税法改正でどうなった?…相続は時間との勝負、家族の結束が試される
日本の相続税法が2024年1月1日から改正が適用された。この法改正は、相続税の裁判に起因するものだが、こうした相続税の改正に対応するために必要なのは、「全員が相続の主役であるという意識を持つことである」。そう語るのは『相続の処方箋』(発売:講談社)の著者で、芦原会計事務所所長税理士の芦原孝充氏である。(以下、本文からの抜粋です)
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全員主役の相続税、それが戦後の相続税制度です。相続人の誰一人欠けても、遺産分割はできません。遺産分割ができなくなると――。
10年、20年という時間の経過とともに、相続人が亡くなり、当該遺産分割の主役がネズミ算的に増えていきます。はじめは兄弟3人で話し合えば済むことが、その子どもたちが遺産分割の枠の中に加わります。このゲームは反対者が一人でもいたら、遺産分割できないルールで行われます。
では、ここで実際に相続が発生した場合のことを考えてみましょう。まず、相続発生直後、預貯金が凍結されます。亡くなったその日から、お金がおろせなくなり、振込や引落も一切できなくなります。株式についても同様です。これらは、遺産分割協議(または凍結解除の相続人全員の申し出)が終わらない限り、どうすることもできません。
また、相続人に配偶者がいる場合、最大で税額の50%を(小規模の相続では100%まで)軽減することができますが、これもできなくなります。
■相続は時間との勝負
他方、相続税は亡くなった日から10か月で納めなければなりません。現金一括納付が原則です。その算段が付かなければ、最短で納付期限から約10日で財産の差押えが入ります。実務の運用としては、少額ならばそこまで即座に、ということはないでしょうが、高額に上る相続税の場合には直ちに入るのが基本です。
差押えの対象は相続財産に限らず、各相続人の固有の財産に及びます。自分の預貯金も、住んでいる家も、その対象です。このように、突然の「人の死」という予測できない出来事に起因して、何も手を打たなければ、(最短)10か月と約10日で差押えられてしまうという時間勝負の問題解決を迫られることになります。
一方、こうした状況に対して、古くからの商家などでは、家督相続の名残りから、葬式に集まった親族(相続人)に相続放棄の書類を預け、次の四十九日には持参するよう求める習慣がいまも生きづいています。こうした知恵が当たり前のように通用しているのは、家族親族間の良好な関係性、「家」を大切に思う心、先祖を尊ぶ想いが培われているからこそのことで、家のあり方がよく現れたエピソードだといえるのではないでしょうか。