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「舞台」西加奈子著

■過剰な自意識を抱えNYの街を彷徨する青年の切なさ

 29歳にして、初めての一人旅でニューヨークにやってきた葉太。幼い頃から自意識が強かった彼は、浮かれた観光客だと見られるのが恥ずかしく、はしゃぐ気持ちを抑えながら街を歩いていた。ところが観光初日、セントラルパークでかばんを盗まれてしまう。中には財布、パスポート、着替え等所持品一切が入っていた。途方に暮れる葉太だが、ここでも強力な自意識が働き、かばんを盗まれて慌てるお上りさんと思われないよう、平静を装い曖昧な笑いを浮かべるのだった。ホテル代は前払いしてあったものの所持金はわずか12ドル。すぐに領事館へ駆け込めばいいものを、観光初日に盗難に遭ったと告げるのが恥ずかしい。仕方なく空腹を抱えながら街をさまようことに――。

 実は、葉太の自意識過剰は作家であった亡き父親への反発に起因しており、異国の地で絶望的な状況に追い込まれることで、葉太の父への思いと自意識が徐々に変容していく。混沌(こんとん)としたニューヨークの街を、自意識という厄介な問題を抱えながら歩いていく葉太の姿は、滑稽ながらもいつしか切なさが募ってくる。(講談社 1400円)

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