「新装復刻 自民党解体論」田中秀征著/旬報社(選者・佐高信)

公開日: 更新日:

「新装復刻 自民党解体論」田中秀征著

 私より5歳上の著者が30代で私が20代の時に寄稿者と編集者として私たちは出会った。ちょうど50年前に出て“幻の名著”といわれた本が、いま、新装復刻された。その契機となる同名の論文を私が勤めていた「VISION」に書いた経緯を著者はあるコラムで明かしている。

「私はこの雑誌に彼の強い勧めで『自民党解体論』を連載し、保守政治の将来に警鐘を鳴らした。しかし、無力な私が小さな雑誌で叫んでも政治的影響はほとんどない。それでも二人は意気盛んで、熱っぽく議論したものだ」

 その後の著者の活躍は改めて記すまでもないだろう。宮沢喜一が「私の頭脳」と呼び、村山富市は全幅の信頼を寄せた。

 いま、まさに自民党が解体しようとしている時、その後の責任勢力の再建がどういう方向でなされなければならないかをこの本は示してあまりある。自民党の中にいたことがあるだけに、たとえば2世議員批判も説得力がある。「彼らは、維持者としての使命を忠実に果たすために、何かしているふりをしながら、『何もしない』ことを厳しく要求される」とし、「彼らには、存在は許されても、行動は許されていない」と結論づける。

 チャーチルは「ペンだこのある政治家」といわれたが、著者のペンもシャープでみずみずしい。

「復刊にあたって」で著者は自民党結成30周年の新綱領に「憲法を尊重する」という一項を入れようとした時のことを振り返っている。それをめぐって「右派宗教団体」が著者を徹底的に叩き、怪文書を選挙区にバラまいたというのだが、それが統一教会であることは明らかだろう。そうしたものと決別しないで自民党が再建できるはずがない。しかし、自民党の中に断固とした決別の機運は見えない。私の分類で言えば、ダーティーなタカばかりになってしまった。

 この「自民党解体論」を渥美清が買って読んだという。渥美も著者が執筆の場所にしていた駒沢通りのカフェの常連で、店主にひと言、「勉強になったよ」と告げたとか。

「彼がその店で本書を読んでいるとき、私と会って遠くから立って頭を下げてくれたのがうれしかった思い出です」と著者は書いている。著者は石橋湛山の孫弟子を自任しているが、この本は湛山思想を基にした現代の実践的「自民党解体論」である。 ★★★

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    さすがチンピラ政党…維新「国保逃れ」脱法スキームが大炎上! 入手した“指南書”に書かれていること

  2. 2

    国民民主党の支持率ダダ下がりが止まらない…ついに野党第4党に転落、共産党にも抜かれそうな気配

  3. 3

    ドジャース「佐々木朗希放出」に現実味…2年連続サイ・ヤング賞左腕スクーバル獲得のトレード要員へ

  4. 4

    来秋ドラ1候補の高校BIG3は「全員直メジャー」の可能性…日本プロ野球経由は“遠回り”の認識広がる

  5. 5

    ギャラから解析する“TOKIOの絆” 国分太一コンプラ違反疑惑に松岡昌宏も城島茂も「共闘」

  1. 6

    国分太一問題で日テレの「城島&松岡に謝罪」に関係者が抱いた“違和感”

  2. 7

    小林薫&玉置浩二による唯一無二のハーモニー

  3. 8

    脆弱株価、利上げ報道で急落…これが高市経済無策への市場の反応だ

  4. 9

    「東京電力HD」はいまこそ仕掛けのタイミング 無配でも成長力が期待できる

  5. 10

    日本人選手で初めてサングラスとリストバンドを着用した、陰のファッションリーダー