著者のコラム一覧
井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

一乗寺ブックアパートメント(京都・一乗寺)本屋を始めたのは「悩みがあったとき、解決策のヒントをくれる場だからですかね」

公開日: 更新日:

 店内に入り、まず目がいったのは、ずらりと並ぶ約30センチ四方のシェア棚だ。陰陽道、ロングセラー絵本、韓国文学、海外SF……。棚ごとに、並べた人の顔が浮かぶようで、つい一つずつのぞき込みたくなる。

 店名から「シェア型書店」だけを想像してきたが、平台からは新刊の安田菜津紀「国籍と遺書、兄への手紙」、カン・バンファ「ことばの波間で」の視線が。別の方向にも新本が勢ぞろい。7坪の店は、シェア棚と新刊書店のミックス型なのだ。

「もとは新刊書店をやりたかったんです。でも新刊だけでは商売として難しいので、シェア型と組み合わせました」と店主の北本一郎さん。

 そもそもなぜ本屋を?

「悩みがあったとき、解決策のヒントをくれる場だからですかね」

 共同通信社の元経済記者。50代半ばに「このまま勤め続けるの?」と自分に問うた。全国の独立系書店を訪ねるようになったのはその頃だ。

 西日暮里の「西日暮里ブックアパートメント」では棚主に。浅草の「Readin'Writin'BOOKSTORE」の店主も元新聞記者。58歳で始めたと知って「僕も」と弾みがついたという。

スナックだった物件は今も夜の店の名残が…

 大学時代を過ごした京都へ。退職金の半分ほどをつぎ込み、2024年、スナックだった築約50年の物件に店を構えたのだ。カウンターや酒棚に、今も夜の店の名残があるのがステキ!あ、店内でビールも飲める。

 新本棚をじっくり拝見し、「パレスチナ戦争」「パレスチナ実験場」の並びに「これからの地球のつくり方」があるのに気づく。シェア棚では「コロナ禍のなかの死刑」の近くに「反差別すごろく」という“すごろく”も案内されている。

「取材で経済の現実を見続けるうち、社会の仕組みにますます疑問を持つようになって」と北本さん。戦争、移民、原発、難民、在日など社会問題をコンパクトに網羅しているのだ。

 ハードルちょっと高いな、と私が思ったのを察したのか、「平易な言葉で書かれた平凡社『中学生の質問箱』シリーズもいいですよ」と、「戦争するってどんなこと?」「在日朝鮮人ってどんなひと?」を手に取り見せてくれる。戦後80年だった去年は、戦争と平和の関連本の購入者に缶バッジを渡したとも。

 読書会などイベントも頻繁に開催。硬いテーマも、一人でも多くの人へ。北本さんの模索が続いている。

◆京都市左京区一乗寺大原田町23-15/叡山電鉄一乗寺駅、市バス高野停留所から徒歩5分/午後1~8時(金曜は午後9時まで)、月・火曜休み(祝日は営業、代休あり)

ウチの推し本

「華氏451度レイ・ブラッドベリ著」伊藤典夫訳

「70年以上前にアメリカで書かれたディストピア小説。本を持つことが禁じられた世界で、本を焼くことを仕事にしている男たちが描かれていますが、本当に怖いのは焚書そのものより、みんなが本を読まなくなった先の社会なんですよね。先日、棚主さんの発案で読書会をして、今のネット世界を予言した本だという話になりました。今こそ読んでほしい一冊です」

(ハヤカワ文庫1650円)

■本コラム待望の書籍化!「本屋百景 独立系書籍をめぐりめぐる」好評発売中!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    萩本欽一〈47〉気仙沼ちゃんは民宿4軒経営の大女将に 説教してテレビで夫を募集させた甲斐があった

  2. 2

    阿部慎之助にした「今ならパワハラで即クビ」の指導&落合博満から学んだ仰天トレーニング

  3. 3

    モグライダーともしげが埼玉の中高一貫ミッションスクール聖望学園で打ち込んだアメフト《26年夏番外編》

  4. 4

    千葉秋季大会開幕も専大松戸が「来春センバツを狙う」と宣言できない切実なチーム事情

  5. 5

    萩本欽一〈46〉斉藤清六が泣きながら持ってきた1000万円、追い返そうと思って貯金額を聞いたら驚いた

  1. 6

    広島4番栗原に敵将・落合監督は「四球でいい」と助言を…

  2. 7

    timelesz猪俣周杜「傷害容疑で逮捕」に“ダブルでガッカリ“…ファンの計り知れない失望

  3. 8

    菊池風磨はジャニー喜多川氏の“推薦”もあって慶大総合政策学部に進学 仕事の合間に1日10時間の猛勉強

  4. 9

    萩本欽一〈45〉斉藤清六を全国区にした誰も知らない裏話 “弟子入りNG”から評価を一転させたんです

  5. 10

    4度結婚した宇野千代の“不倫”をNHK朝ドラ「ブラッサム」はどう描く?「カーネーション」は真正面から