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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

422 BOOKCAFE & BAR(大阪・淡路町)版元・読者・周りの人「三方よし」のリラックス空間

公開日: 更新日:

 創元社のビルに、余裕のブックカフェができているよ──。そんな噂を耳にして、訪問したのだが、いわく「余裕の」が意味することが、ドアを開けるや分かった。

 115平方メートルほどの空間に、ゆったりとソファとテーブルが配され、ところどころに本棚。のびやかなカウンターも。ホテルのラウンジのような雰囲気だったのだ。

「元は倉庫でしたが、役目を終えて空いていた部屋です。2年前に社長が発案。このあたりでも本屋の売り場面積が減ってきている中、今年3月にオープンしました」と、迎えてくれた松浦利彦さんがおっしゃる。旧知の編集者だが、名刺をもらうと「新規事業部部長」とあった。

「ガツガツ本を売ろうとしない感じの新規事業ですか?」と向けると、「ええ。リラックス空間で飲食しながら本を眺め、気になれば買って読んでいただければ。広い意味で読書人口が増えてほしいですからね」と、さすがの言葉。

 店名の「422」は、岩波書店「00」から始まる出版社番号で、創元社が3桁なのは老舗の証しだそう。飲食業界から店長・中垣秀夫さんと、地元大阪のCDレーベル、澤野工房のジャズにも明るい乾智経さん。若い2人を迎えて、店作り中なのだ。

 購入できるのは、大半が創元社の本。大ヒットしたロングセラー本「D・カーネギー」のシリーズに最初に目がいくが、私が勝手に推している「翻訳できない世界のことば」や「はたらく写真絵本」のシリーズも、視線を投げてくる。社会、人文を柱とするが、硬軟さまざま。私は「闇の西洋絵画史」「世界の不思議な図書館」にも手がのびる。

村上春樹から近代史まで関西ゆかりの本が集結

 そして、足が止まったのが、村上春樹、小川洋子、津村記久子、森見登美彦をはじめ、関西・大阪ゆかりの作家本がずらりの棚。その続きに1970~80年代を風靡した情報誌「プレイガイドジャーナル」についての「『プガジャ』の時代」あり、大阪の近代史のバイブル「大阪史話」あり。貴重な大阪本が集結しているじゃないか。これらは創元社の資料在庫の放出で、自由に閲覧できる。「出版社の参考資料室」がそのまま開かれたような面白さだ。

 なお、訪問は夕刻だった。「一杯どうぞ」と松浦さんがけしかける。鹿児島の一升瓶ウイスキー「マルスウイスキー」を使い、レモンピールもひとひねり。「本町ハイボール」を作ってくれて、ではいただきます。むむ。喉に、涼しい火がともった。そして、ソファへ。すみませんね、取材なのにこんなにくつろがせていただいて。

 マジで思う。各出版社が、こういうカフェを併設したらいいのにと。

 版元、読者、周りの人。「三方よし」の場の先駆けだと思った。

ウチの推し本

「原寸復刻浪花百景集成」橋爪節也編著

「浪花百景」は幕末に成立した名所錦絵で、全102点。歌川国員、南粋亭芳雪、里の家芳瀧の歌川派絵師3人の競作。

「大阪市立図書館に秘蔵されていると知って、私が閲覧したのが発端。保存状態の良い完本を原寸復刻し、美麗に印刷した画集です。住吉高燈籠、天満市場、新町遊郭など、江戸期の大坂の風物が見事に描かれ、地誌的・美術史的観点で多角的に作品解説がほどこされています」(松浦さん)

(創元社刊 1万1000円)

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