唾液の中のIgA抗体が新型コロナウイルスの感染をブロック!? キーワードは「口腔内環境」
からだの内側からもしっかりコロナ対策を
4度目の緊急事態宣言が発令されるなど、コロナ禍はまだまだ収まりそうもない。そんな中、新型コロナ感染者は、「からだの内側」からの対策が不足していたことが調査で明らかになった。その「からだの内側」から体を守るものとして唾液の力が注目を集めている。なぜ、唾液なのか。神奈川歯科大学の槻木恵一教授に聞いた。
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日本能率協会総合研究所が、300人の新型コロナウイルス感染経験者を対象に行った対策実態調査では、約9割が、マスクや消毒、手洗いなど「からだの外側」からの対策は充分だったと回答。そのため、「まさか自分が感染するとは思っていなかった」という気持ちになった人が8割を占めている。一方で、免疫力維持などを意識した「からだの内側」からの対策については、充分できていたと思う人は2割程度しかいなかった。
感染理由のひとつとして、体の防御力とウイルスの感染力のバランスがあると槻木教授は話す。
「感染力が強いと感染症に感染してしまいますし、防御力が強ければ感染しないで済みます。感染しないためには防御力がキーになるわけですが、今回の調査結果では、多くの人が生体の防御力の強化をおろそかにしていたことがわかります」
マスクや手洗い、消毒といった外側からの対策はもう充分しており、これ以上は限界がある。前述の調査では、具体的に実施していた対策を聞いたところ、睡眠や食事での対策意識は低く、また、ウイルスの侵入口となる口腔ケア(歯磨き)を意識的に行っている人は3割程度にとどまっていた。
■ちょっとした油断、対策意識の欠如が感染リスクを高める可能性も
「新型コロナウイルスは、主に口や鼻から侵入することがわかっています。口がウイルスの貯蔵庫のようになっていることも考えられる。だから、感染を防御するための口腔ケアや唾液の中の抗菌物質が重要になるのです」
槻木教授らの研究チームは、神奈川歯科大学附属病院の医師や歯科医137人に唾液のPCR検査等を行い、全員が陰性であることを確認した後、唾液中の抗菌物質であるIgA抗体を調べた。すると、新型コロナウイルスにかかったことがないにもかかわらず、新型コロナウイルスに対して働く『交叉IgA抗体』があることが確認されたという。
「注目すべきことは、その交叉IgA抗体が部分的に中和活性の働きを持っていたことです。つまり、交叉IgA抗体が新型コロナウイルスにアタックして感染を防ぐ可能性があるのです」
唾液中のIgA抗体は、特定のウイルスや菌に対して働くもの(交叉抗体)から、異物と認識すると排除しようとする働きをもつものまでさまざまあるとされている。今回の研究で「交叉IgA抗体」をもっている人が一定数いた理由として槻木教授は、これまで一般的な風邪ウイルスとして蔓延っていたコロナウイルスに過去にかかった記憶から、これまで感染したことのない新型コロナウイルスに対しても類似の部分を見つけ出し、免疫反応を起こす抗体が出現したのではないかと考えているという。
「また、24〜49歳と50〜65歳の2つのグループに分けて解析すると、若いグループの方が交叉IgA抗体を多く持っており、高年齢世代のグループは明らかに少ないことが分かりました。このことから、新型コロナウイルスで重症化しやすい人と、無症状で済む人の違いの1つに、IgA抗体の量が大きく影響していることが考えられます」
内側からのケアが唾液中のIgA抗体を増やす
では、どうすれば、唾液中のIgA抗体が増えるのか。
「発酵食品や、海藻などの食物繊維の摂取が、唾液中のIgA抗体の量を増やしてくれます。ただし、今日食べれば明日効くというものではなくて、常に摂取する習慣が大事なポイントです」(槻木教授)
発酵食品や食物繊維が腸内環境を整え免疫を高めることは広く知られているが、それが唾液中のIgAを高めることにもつながるのだと言う。
「腸管は免疫臓器としては最大の臓器だといわれています。発酵食品を摂取することによって腸管で短鎖脂肪酸が作られます。その短鎖脂肪酸が唾液腺に刺激を与え、唾液中のIgA抗体の量を増やすのではないかと考えられています」
唾液中のIgA抗体が機能的に働くには、口の中が汚いよりはキレイな方がいい。食事と合わせて歯磨きなどの内側からのケアをしっかり行う必要があるようだ。
「高齢者の方では、口の中をキレイにしてからご飯を食べることをお勧めします。食事と一緒に口の中の汚れや細菌を飲み込むことはいいことではありませんからね。また、長期間のマスク生活は口の中を渇きやすくすることがあります。口の中が渇くと菌が繁殖しやすくなるので、口腔ケアがより必要だと思いますね」
“腸活”で唾液中のIgA抗体を増やし、「からだの内側」からもしっかり新型コロナ感染対策をしたいものである。
▽槻木恵一 神奈川歯科大学環境病理学教授。2007年から同大学教授になる。唾液中のIgA抗体の分泌量増加に、腸管内で短鎖脂肪酸が重要な役割を果たすことを明らかにし、「腸─唾液腺相関」を発見。「ホンマでっか!TV」「スゴ腕の専門外来SP」などメディア出演も多数。