「強父論」阿川佐和子著
94歳で大往生した父親・阿川弘之氏との思い出をつづったエッセー。
臨終の夜、仕事を終わらせて娘が駆け付けると父の呼吸はすでに止まっていた。しかし、まだ心臓は動いており、話しかければ今にも言葉が返ってきそうだった。娘は、父が生前に著作の増刷分の印税額を気にしていたことを思い出し、「30万円だったよ」とその耳に報告する。いつものような反応を期待したが、父の声が病室に蘇ることはなかった。そんな別れの日の情景から、父を父と初めて認識した日の幼い日の思い出、そして決して父と同じもの書きになるまいと誓っていたのに、お互いに仕事について相談し合うようになった近年まで、お互いに憎まれ口をたたきながらも深い愛情で結ばれた父と娘の関係が浮かび上がる。(文藝春秋 1300円+税)