谷口功一(東京都立大学法学部教授)

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11月×日 大河ドラマ「光る君へ」を視聴。源氏物語が書き終えられたが、紫式部が「往生要集」を脇に「とぞ本に侍るめる」と記し擱筆したのを見て、物語の力に思いを致した。

 つい先日、最終回を迎えた物語にマンガ「推しの子」(赤坂アカ×横槍メンゴ著 集英社 990円)があるが、この最終回についてはネット上で毀誉褒貶の嵐が巻き起こっていて驚いた(以下ネタバレ注意)。

 主人公の1人アクアが入水し、後に残された女たちが悲しみの中にも再起するというラストだったが、ある種のバッドエンドと慌ただしい物語の巻き取りに少なくない人が不満を持ったようだ。

 この件、友人の漢文学者が卓見を示していた。曰く「オッサン無双」の話であるという本質を忘れてはいないかと。作中では高校生男子のアクアの中身は、終幕の時点で既に齢50近い中高年男性であり、次世代の望ましい未来を考えるなら「ああするしかなかった」のである。

 事態の全容をほぼ把握しているのは黒川あかね独りなので、彼女の語り=第3者的な視点に立つ「あかね推し」人士たちは物語慣れしていなくても、受容しやすい結末だったかもしれないとも。

 あかねは「平家物語」で最後に残った建礼門院のようなもので、そのような視点の欠如が「悲劇」に対する最近のひとびとの理解・耐性の薄さに繋がっているのかもしれない、とも友人は話していたのだった。

 建礼門院は少し前にアニメ「平家物語」(山田尚子監督)のラストで五色の糸を手にとって西方浄土へ往生した女人だが、彼女の最期と本稿冒頭の「源氏物語」のラストについては丸谷才一が「女の救はれ」という文章で面白いことを書いている。

「源氏物語」のラストは浮舟をめぐる何とも中途半端な話で突然ふっつりと終わるが、あれも建礼門院と同様、難しいとされていた女人往生を仄かに描き出したものなのだと。マンガ「あさきゆめみし」のラストは、まさにそのような浮舟の宗教的法悦を真正面から描き出しており、我が国の誇るマンガ文化と古典との間の滋味深い共鳴をしみじみと感じる師走の昨今である。

【連載】週間読書日記

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