「やまと錦」村木嵐著

公開日: 更新日:

 幕藩体制が瓦解し、明治新政府が立ったとき、この国の最大の問題は法体制が整っていないことだった。欧米列強から不平等な条約を強いられ、世情は動揺していた。不満を抱えた藩士たちは闇討ちを繰り返し、国民は不安と貧困に喘いでいる。必要なのは、日本という国の形を定め、すべての法の上に君臨する法、つまり「憲法」である。このとてつもない難業に精魂込めて取り組んだのが、井上多久馬(のちに毅)である。2500年以上続く天皇制の上に、列強に屈しない近代国家を築く憲法草案を起こした彼の生涯を描く。

 読み進めると、今にも通ずる憲法の屋台骨を建てるために、想像を絶する労苦と緻密な配慮があったのだとわかる。憲法に基づいて政治が行われる立憲主義を貫き、政府と議会と裁判所の三権分立の原理を巧みに織り込んで、おのおのの暴走を抑制するはずだったのだが……。

 タイトル「やまと錦」に込められた井上の思いを知れば、今なお続く改憲論争を違う角度で見つめることができるはずだ。(光文社 1600円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    JリーグMVP武藤嘉紀が浦和へ電撃移籍か…神戸退団を後押しする“2つの不満”と大きな野望

  2. 2

    広島ドラ2九里亜蓮 金髪「特攻隊長」を更生させた祖母の愛

  3. 3

    悠仁さまのお立場を危うくしかねない“筑波のプーチン”の存在…14年間も国立大トップに君臨

  4. 4

    田中将大ほぼ“セルフ戦力外”で独立リーグが虎視眈々!素行不良選手を受け入れる懐、NPB復帰の環境も万全

  5. 5

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  1. 6

    FW大迫勇也を代表招集しないのか? 神戸J連覇に貢献も森保監督との間に漂う“微妙な空気”

  2. 7

    結局「光る君へ」の“勝利”で終わった? 新たな大河ファンを獲得した吉高由里子の評価はうなぎ上り

  3. 8

    飯島愛さん謎の孤独死から15年…関係者が明かした体調不良と、“暗躍した男性”の存在

  4. 9

    巨人がもしFA3連敗ならクビが飛ぶのは誰? 赤っ恥かかされた山口オーナーと阿部監督の怒りの矛先

  5. 10

    中日FA福谷浩司に“滑り止め特需”!ヤクルトはソフトB石川にフラれ即乗り換え、巨人とロッテも続くか