「山よ奔れ」矢野隆著
大坂の医師の息子、杉下風馬は博多にたどり着いた。長崎を目指していたのだが、小倉で金を盗まれて宿賃も払えない。見かねた大工の九蔵が自分の長屋の空き部屋に連れていった。
博多はギ園山笠の季節で、九蔵は「追い山」に命を懸ける〈のぼせもん〉だ。その前年に尊王攘夷派が公武合体派に押され、長州に逃れるという事件があり、博多には月形洗蔵をはじめとする筑前勤王党の志士が集まっていた。そんななか、山を打ち壊して〈のぼせもん〉らの怒りをあおり、それを城に向けようという企てが進行していた。
激動の時代に、政争に巻き込まれながらも博多山笠に命を懸ける男たちを描く時代小説。(光文社 1600円+税)