「木曜日にはココアを」青山美智子著
僕が勤めている「マーブル・カフェ」の窓際の隅の席でいつもホットココアを飲んでいる女性を、僕は勝手に「ココアさん」と呼んでいる。7月半ば、ココアさんはいつもと違って元気がない。お気に入りの席には先客がいる。空いている席に座った彼女の頬に涙が伝うのを僕は見てしまった。窓際の席が空いたので「好きなところにいるだけで、元気になることもあると思います」と言うとほほ笑んだ。彼女が書いていた手紙の上にうっかりココアをこぼしてしまったので、あわてて拭こうとすると、「見て、ココアのハート!」とココアさんははしゃいだ。(表題作)
カフェで起きた小さな出来事がチェーンのようにつながって、ほんのり幸せになる物語。
(宝島社 1300円+税)