「雲のうえの千枚ダム」西谷大著
ミャンマー、ラオス、ベトナムの3カ国と国境を接する中国の雲南省には、雲海の上に広がる大棚田地帯がある。本書は、この大棚田を有する海抜およそ1100メートルの金平県者米谷に、約10年間住み込んで行ったフィールド調査をもとにまとめたルポルタージュだ。
者米谷は、タイ族をはじめ、アール、ヤオなどの8つの少数民族と漢民族が暮らす政治的に微妙な地域で、等高線の入った地図は販売されていない。
このため、まず人の集まる市で情報収集から始めなければならなかった。たとえばタイ族の場合、水田をドジョウやウナギを捕るためにも利用する。タイ族の女性が結婚相手を選ぶ際には、動物性タンパク質を手に入れてくれるこの水田漁労のうまい男性がもてるというのも面白い。
なお、現在、雲南省内では外国人による調査の許可が下りないため、本書は民俗学的な資料としての意味も持つ。
大棚田地帯の光景と人々の表情をとらえた写真も収録されている。(社会評論社 2400円+税)