無口な肥満児がバッタに食べられたいとアフリカへ
「バッタを倒しにアフリカへ」前野ウルド浩太郎著/光文社 920円+税
気温46度! スーダンの砂漠地帯で見た温度計がすごいことになっていた。
なぜこんな土地に人類が住みついたのだろう。体中の水分をじわじわ奪い、パリパリ人間煎餅になって干からびていく。車のボンネットで半熟の目玉焼きも作れそうだ。こんな殺人的な暑さに目まいがする時は、住血吸虫も恐れずナイル川に飛び込むか、日が沈むまでじっと木陰で耐えるしかない。
本書はそんな過酷なアフリカ、モーリタニアの土地に渡り、金もない、力もない、言葉も話せない若き学者が書いた奮闘記である。太り過ぎて走るのが遅かった著者の前野氏は、鬼ごっこを戦線離脱して道端に座り込んでは、虫のユニークな動きをじっと見ているような子供だった。
ファーブルを神と崇め、苦労して国立大学で博士号を取り虫博士に……と思いきや、そんなに世の中、甘くない。博士になりたい人はごまんといる。博士版の短期の契約社員であるポスドクを続けながら、研究成果を発表し、就職先を見つけなければならない。
大好きなバッタの研究をするなら、空が茶色に染まるほど大発生して穀物を食い荒らすモーリタニアへ! と鼻息荒く乗り込んでみれば、その地で待っていたのは、九死に一生を得た過去からバッタ研究に命を捧げる研究所のババ所長、給料を二重取りするスピード狂のティジャニ、金山で傭兵をしていたセキュリティーのモハメッドなど、一癖も二癖もある超個性的な面々だ。
無口な秋田の肥満児だった著者が一転、灼熱の砂漠で網を片手に、現地の人々と必死にコミュニケーションを取り、ノミやサソリに噛まれながらも、何年に一度か起こるバッタの大発生を待つ。
これだけでも十分変わっているが、「バッタと一体化したい、体ごと食べられたい」という謎の野望を持つ博士は、ただの変態かもしれない。果たしてバッタは大発生するのか? 無事、就職はできるのか? バッタに興味はなくとも、地球規模の壮絶な就活物語として読んでも面白い一冊だ。