「星の子」今村夏子著

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 林ちひろは生まれて間もなく全身に湿疹ができ苦しんでいたが、どんな薬も効かず両親は弱り果てていた。そんな折、父の同僚から、これを使ってみろと「金星のめぐみ」という水を渡される。試しにその水でちひろの体を洗ってみると、2カ月で湿疹は完治。以来、両親はその水を販売するあやしげな宗教にのめり込んでいく。

 ちひろは両親に言われるままに宗教セミナーに参加したりしていたが、エネルギーを取り込むために、頭に水で湿らせたタオルをのせる姿は周囲から気味悪がられ、学校に入ると友達も寄りつかなくなる。5歳上の姉は、妹ばかりに注意を向け、妙な宗教に入れ込む両親に反発し、家を出ていってしまう。中学3年生になったちひろは、そんな自分の環境を受け入れつつも、どこかで別の道もあるのだろうとの複雑な思いを抱えながら、恒例のセミナーに出掛けていく……。

 淡々とした筆致で、解決のない問題を抱えるちひろの心情がつづられていくが、ラストでほのかな希望を抱かせてくれるのは救い。三島賞受賞の新鋭作家の最新作。(朝日新聞出版 1400円+税)

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