著者のコラム一覧
北島純映画評論家

映画評論家。社会構想大学院大学教授。東京大学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、経済社会システム総合研究所(IESS)客員研究主幹を兼務。政治映画、北欧映画に詳しい。

映画「バービー」が興収2000億円突破! それでも日本でイマイチ当たらなかったワケ

公開日: 更新日:

 馬からトラックまで、何もかもが「男」の価値を高める機能を果たし、「女」は男から品定めをされる。人形の持ち主とおぼしき少女と会ったバービーは歓迎されると思いきや、「バービー人形はありえない体形を理想化し女の子の自信を奪う。フェミニズムを50年後退させたファシストだ」と面罵され、衝撃を受ける。

 他方でケンは、男が男というだけで尊敬されるマッチョな現実社会に驚嘆し興奮を隠せない。瞬く間に「男尊女卑の権化」となったケンはバービーランドに戻り、男性中心の王国「ケンダム」を樹立する。かつて大統領だった女性が男性にビールを配って奉仕し、男性はスポーツやITが苦手なふりをした女性に「上から目線で説明」(マンスプレイニング)して悦に入る。女性は「脳みそが永久に休暇」状態だ。

 帰ってきたバービーは、その惨状に心が折れて現実逃避するも、人形の持ち主グロリア(アメリカ・フェレーラ)に鼓舞されバービーランドを取り戻す運動を始める。女性の洗脳を解いて仲間を増やし、男性同士を争わせ、ついに憲法改正で勝利を収めるのだ。


 ところが、人形世界はかつての「完璧な予定調和の理想郷」には戻らない。この変容こそが本作の真骨頂だ。ある人物の言葉を受けて、ケンは「バービーあってのケン」から「ケン自身」を模索し始め、女性大統領は変テコバービーを差別視していたことを謝罪、主人公バービーは「生きる意味」を希求するようになる。終盤に流れる「女性の一生」をフラッシュバックする映像は、グレタ・ガーウィグのみずみずしい感性に満ちており、限りなく美しい。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 芸能のアクセスランキング

  1. 1

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞

  2. 2

    国分太一が「世界くらべてみたら」の収録現場で見せていた“暴君ぶり”と“セクハラ発言”の闇

  3. 3

    長女Cocomi"突然の結婚宣言"で…木村拓哉と工藤静香の夫婦関係がギクシャクし始めた

  4. 4

    元TOKIO松岡昌宏に「STARTO退所→独立」報道も…1人残されたリーダー城島茂の人望が話題になるワケ

  5. 5

    長嶋一茂は“バカ息子落書き騒動”を自虐ネタに解禁も…江角マキコはいま何を? 第一線復帰は?

  1. 6

    嵐ラストで「500億円ボロ儲け」でも“びた一文払われない”性被害者も…藤島ジュリー景子氏に問われる責任問題

  2. 7

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  3. 8

    "お騒がせ元女優"江角マキコさんが長女とTikTokに登場 20歳のタイミングは芸能界デビューの布石か

  4. 9

    27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂

  5. 10

    菊池風磨率いるtimeleszにはすでに亀裂か…“容姿イジリ”が早速炎上でファンに弁明

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    嵐ラストで「500億円ボロ儲け」でも“びた一文払われない”性被害者も…藤島ジュリー景子氏に問われる責任問題

  2. 2

    トリプル安で評価一変「サナエノリスク」に…為替への口先介入も一時しのぎ、“日本売り”は止まらない

  3. 3

    27年度前期朝ドラ「巡るスワン」ヒロインに森田望智 役作りで腋毛を生やし…体当たりの演技の評判と恋の噂

  4. 4

    今田美桜に襲い掛かった「3億円トラブル」報道で“CM女王”消滅…女優業へのダメージも避けられず

  5. 5

    安青錦の大関昇進めぐり「賛成」「反対」真っ二つ…苦手の横綱・大の里に善戦したと思いきや

  1. 6

    元TOKIO松岡昌宏に「STARTO退所→独立」報道も…1人残されたリーダー城島茂の人望が話題になるワケ

  2. 7

    今田美桜が"あんぱん疲れ"で目黒蓮の二の舞いになる懸念…超過酷な朝ドラヒロインのスケジュール

  3. 8

    織田裕二「踊る大捜査線」復活までのドタバタ劇…ようやく製作発表も、公開が2年後になったワケ

  4. 9

    「嵐」が2019年以来の大トリか…放送開始100年「NHK紅白歌合戦」めぐる“ライバルグループ”の名前

  5. 10

    実は失言じゃなかった? 「おじいさんにトドメ」発言のtimelesz篠塚大輝に集まった意外な賛辞