(38)「母と娘」という形は、はっきりと失われた
母の入所先となる施設を仮申し込みしたことで、病院側でも退院に向けた準備が少しずつ進み始めた。母が状況をどこまで理解できるかはわからなかったが、たとえ形式的でも本人に一度確認しておきたいと考えていた。病院のケースワーカーもそれを後押ししてくれて、Zoomでの面会をすることになった。
私はいつもの仕事用のPCを立ち上げ、病院とつないだ。しかし母の側の電波状況があまり良くなく、映像は荒れて、顔が途切れ途切れにしか見えなかった。
懸念材料もあった。母は病院には「退院したら自宅に帰りたい」と話しているという。私は施設入所の予定で準備を進めていたため、その意向とのズレをどうしようかと思案していた。
画面に映った母の髪は白くのび、手入れされた様子はなかった。入院からすでに7カ月が経過していたが、髪を切るなどのケアは行き届いていないようだった。服装は、入院時に叔母たちが用意した地味な色のパジャマ。鮮やかな色のTシャツにジーンズを合わせ、サングラスをかけて車を運転していた頃の母の姿とはまるで違っていた。