著者のコラム一覧
スージー鈴木音楽評論家

1966年、大阪府東大阪市生まれ。昭和歌謡から最新ヒット曲まで幅広いジャンルの楽曲を、社会的な視点からも読み解く。主な著者に「中森明菜の音楽1982-1991」「大人のブルーハーツ」「日本ポップス史 1966-2023」など。半自伝的小説「弱い者らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」も話題に。日刊ゲンダイの好評連載をまとめた「沢田研二の音楽を聴く1980-1985」、最新刊「日本の新しい音楽1975~」は大好評。ラジオDJとしても活躍。

『アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア』ポールの「フォー」の咆哮に「ハートは盗まれた」

公開日: 更新日:

アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』(1963年3月22日発売)②

■『アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア』

 衝撃の1枚の衝撃の1曲目である。

 この曲の感動を数字で測定できるならば、冒頭のカウントが50%ぐらいを占めていると思う。

「ワン、ツー、スリー、フォー!」──叫んでいるのはポール。ドラマーではなくベーシスト&リードボーカルがカウントを発するのが、何ともビートルズらしい。

「フォー!」をとりわけ強く叫んでいる。これを深読みすれば「ワン」「スリー」という前拍ではなく、「ツー」「フォー」という後拍が強調されたロックンロールという音楽をやってやる、という宣言にも聴こえてくる。

 曲としては、今となっては、普通のポップなロックンロールのように聴こえるが、歌詞でいえば「♪ソー・ハウ・クッド・アイ・ダンス~」、下記試聴リンク再生時間「0:20」からのコード進行が凝っている。



「一筋縄じゃいかない曲を作ってやるぜ」。その後、世界で大成功するソングライターチーム「レノン=マッカートニー」の心意気がひしひしと伝わってくるようだ。

 さらに再生時間「1:32」からのジョージのギターソロが、何とも危なっかしいけれど、録音日のジョージは、20歳になるちょうど2週間前の19歳。温かい目で見てやってほしい。

 そして演奏全体も、まだまだ、ぎこちない感じはするが、1995年のアルバム『ザ・ビートルズ・アンソロジー1』収録、63年の秋に録音されたスタジオライブでは、もうノリノリになっている。ぜひ聴いて欲しい。



 長ったらしいタイトルは、先の凝ったコード進行のところの歌詞と連動している。「他の娘と踊りたくなくなっちゃったよ。あそこに立っているあの娘を見たとたん」。

 ちょっと余談。ここで三宅裕司の奥さんの有名な言い間違いネタを思い出した。友人に三宅を紹介するときに「紹介します。あそこがたっているのがウチの主人です」。

 で、タイトル。英語そのままだと、さすがにちょっと長過ぎないか? こういうときこそ邦題の出番ではないか。

 そういえば大昔に見た楽譜には、こんな邦題が付いていたけど、使われなくなってしまった。なかなかうまかったのにな──「その時ハートは盗まれた」。

 最後に。とても印象的で、感動の約50%を占める冒頭のカウントだが、後から録音して、つながれたものだという。ビートルズはこういう細かいテープ編集がやたらと多い。一流のロックンローラーでありながら、一流の録音芸術家でもあったのだ。

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