「花しぐれ」梶よう子著
「御薬園同心 水上草介」と副題のついた小説だが、人気シリーズ最終巻と帯にあるのでびっくり。もう終わるのか。
このシリーズは、徳川幕府が薬草栽培と御城で賄う生薬の精製をする施設、小石川御薬園を舞台にした連作である。
ちなみに、この小石川御薬園内には困窮のために薬袋料を支払えぬ者や、身寄りのない重病人を収容する養生所もあり、ここを舞台にしたのが山本周五郎「赤ひげ診療譚」だ。この養生所は本書にも登場し、蘭方医河島仙寿が今回は大活躍する。
副題にあるように、主人公は水上草介。植物に触っていればそれだけで幸せという男で、手足がひょろ長く、吹けば飛ぶような体なので、周囲からは水上でもなく草介でもなく、水草と呼ばれている。もっともそう呼ばれても本人はまったく気にしていない。
はなはだ頼りない男で、草食系男子といっていいが、この男の周囲に起こるささいな謎や悩みや騒動を、それなりに解決していく連作である。これまでに「柿のへた」「桃のひこばえ」と、2作書かれていて本書が3作目。たった3作でシリーズ終了とは残念だ。
御薬園預かりの武家の娘千歳(剣術道場に通うおてんばで、若衆まげで颯爽と歩く姿がりりしい)を、草介は憎からず思っているのだが、これまで告白できなかったのに、たった1巻で告白までこぎつけることはできるのか、大いに気を揉むのである。(集英社 1850円+税)